第1章 始まり──10年前
──瀬里奈side
次の日。
「瀬里奈ちゃーん!お出かけするわよォ」
有希子さんが元気に声をかけて来た。私はあてがわれた部屋のベッドからむくりと起き上がる。
「……え、有希子さん……?」
「さっ、眠いのは分かるけど起きた起きた!今日は忙しいわよォ」
「は?えっ?」
朝っぱらから妙にテンションが高い有希子さんに手を引かれ、私は車に連れ込まれた。
「あ、あのぅ有希子さん……?」
私は怖々と訊いてみた。
「今日、これからどこ行くんですか?」
「まずは養子縁組と転校手続きしてー、それから瀬里奈ちゃんのお洋服見に行きましょ!」
女の子の服見るなんて蘭ちゃん以来だわ〜、とウキウキの有希子さんに対し、私は困ったように笑うしか出来なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
必要な手続きを全て済ませ、私はただいまデパートにて洋服を見てもらっている。
「よし、これも買っちゃおう!」
「ちょ、ちょっと有希子さん……何もそこまで」
「もう!“有希子さん”じゃないでしょー?」
次から次へと服を買っていく有希子さんを見かねて私が止めようとすると、有希子さんは私のおでこをツンとつついた。
「“お母さん”でしょ!もうー」
どうやら“娘”に“お母さん”と呼ばれるのが相当嬉しいらしい。
「お、お母さん……」
「それでよし!」
有希子さん──いや、お母さんは満足げに笑って、また服を買い漁り始めた。
「だからお母さん!私そんなに服いらないって……」
「いいからいいから!」
そんなこんなで何時間か買い物をしているうちに、やがて車の後部座席は私の服や日用品でいっぱいになってしまった。
家に帰って来た新一と優作さんに「こんなに買ったのか!?」と驚かれる羽目になったのは言うまでもない……。