第1章 始まり──10年前
「名前から教えてくれるかい?」
そう優作に問われ、少女はこくんと頷いた。
「名前は……瀬里奈と言います」
「苗字は?真凛ちゃんと同じでいいのかしら?」
有希子が訊くと、少女──瀬里奈はまた頷いた。
「はい。それで……厚かましいとは思うんですが……」
瀬里奈が言いづらそうに言う。と、優作が言葉を継いだ。
「養子縁組や転校の手続きなら問題ない。君さえ良ければ、上手いこと誤魔化すことも可能だ」
優作がそう言うと、瀬里奈はパッと顔を輝かせた。
「ありがとうございます!」
と、そこへ幼い少年が歩いてきた。
「父さん母さん……?何してんだよ」
「あら新ちゃん。ちょうどよかった、この子今日からウチで預かるから」
有希子があっさりそう言うと、幼い少年──新一はギョッとした。
「預かるって……」
「ご、ごめんなさい……今日からよろしくね、新一君」
瀬里奈が困ったように笑うと新一は大きくため息をついたが、それ以上何も言わなかった。