第28章 緋色──Rye, Bourbon, Russian
安室さんが昴さんの着ているハイネックの襟を引っ張って首筋をあらわにした。
が──
「!?」
昴さんの首には何も付いていなかった。
安室さんがそのことに動揺を隠しきれなくなった頃……
来葉峠ではキャメルの運転するベンツのタイヤのエアがなくなりかけていた。
ここまでか──と思われた時、後部座席から不意に声がした。
「屋根を開けろ……」
と。
ジョディが後部座席を見ると、追ってくる車の逆光に照らされているシルエットが見えた。シルエットは辛うじてニット帽を被っていると分かる。
「開けるんだキャメル……」
もう一度その声が聞こえた。
キャメルはその声に従い、車の屋根を開けた。
まさか、まさか──
屋根が開き、月明かりの下に姿を現したのは──
「しゅ……シュウ!」
「あ……赤井しゃん……」
──赤井秀一だった。
襟を掴まれたままの昴さんは冷静にブルっている携帯を指差した。
「電話……鳴ってますけど……」
携帯は先ほど安室さんが置いていた物。安室さんは通話ボタンをピッと押した。
「どうした?遅かったな……。え?
あ……赤井が!?」
「このカーブを抜けたら200mのストレート……。
5秒だキャメル……」
赤井の登場に涙目になっていたキャメルに、赤井は後ろを見ながらそう言った。
「5秒間ハンドルと速度を固定しろ……。このくだらんチェイスにケリをつけてやる……」
キャメルは「りょ、了解!」と赤井の指示を入れた。
「──っていうかあんたどこで何やってたのよ?何で車に乗ってるわけ!?」
ジョディのもっともな疑問に、赤井はさらりと答えた。
「全て思惑通りだよ……。あのボウヤのな……」