第28章 緋色──Rye, Bourbon, Russian
安室の仲間であろう者達を振り切るため、キャメルは必死に運転していた。だが──
「まずい……。ハンドルが右に右に切られてしまう……」
さっき岩に乗り上げた時にタイヤとホイールがダメージを食らってリムが曲がり、タイヤのエアが漏れているのだ。
このカーチェイスを終わらせるには追っ手の車を走行不能にするしか方法はないが、キャメルは運転中だし、ジョディも助手席から銃を撃つなんてできない。
このままじゃ──追い付かれるのも時間の問題だ。
《栄えあるこの賞に輝いたのは……なんと映画の脚本を手掛けたのはこれが初めてというベストセラー作家……。
『ナイトバロン』シリーズでお馴染みのMr.ユウサク・クドウ!作品タイトルは『緋色の捜査官』です!》
私の父である工藤優作が拍手喝采の中壇上に上がった。
私と桂羅兄がワクワクしながらTVを見ていると、安室さんがおもむろに口を開いた。
「一体何を企んでいる?」
「企むとは?」
昴さんがそう尋ねる。
安室さんはニヤリと笑って答えた。
「ざっと見た感じだが……玄関先に2台……。廊下に3台……。そしてこの部屋には5台の隠しカメラが設置されているようだ……。この様子を録画してFBIにでも送る気か?それとも別の部屋にいる誰かが……この様子を見ているのかな?」
私は“彼”の方を見てしまいそうになるのをこらえた。安室さんの前で迂闊に動くのは得策ではない。
と、桂羅兄が手招きをして私を呼んだ。
安室さんの後ろを通って彼のそばに行くと、ヒソヒソと耳打ちされた。
『あのボウヤなら大丈夫やろ……。心配いらんて』
その言葉に私はふわり、と笑って頷いた。
昴さんはゴホゴホと咳払いをする。
「そもそも赤井秀一という男……僕と似ているんですか?顔とか声とか……」
安室さんはフッと笑った。
「フン……。顔は変装……声は変声機……」
「変声機?」
昴さんがそう訊くのと同時に、私と桂羅兄の表情も変わった。
「今日の昼間、この近辺を回ってリサーチしたんです……。隣人である阿笠博士の発明品で評判が良かったのに、急に販売を止めた物はないかってね……」
それはチョーカー型変声機。首に巻けば喉の振動を利用して自在に声を変えることができる。
「そう……大きさは丁度……そのハイネックで……隠れるくらいなんだよ!」