第28章 緋色──Rye, Bourbon, Russian
「でも、出来れば連絡が来る前にそのマスクを取ってくれませんかねぇ……。沖矢昴さん……。いや……
FBI捜査官……赤井秀一!」
安室さんにそう問い詰められた昴さんは少しの間だけ黙っていた。
私と桂羅兄がごくり、と固唾を飲んで見守っていると、昴さんは耳の後ろに手をかけた。
「君がそれを望むなら……仕方ない……」
(……な!?)
私はぎょっとした。まさか変装を解くことはないとは思うけれど……。どうするつもりなの?
後ろから追って来る謎の車数台から逃げていると、前方にも車が数台停まっていた。
「ウソ!?車でバリケード!?」
キャメルは咄嗟に右にハンドルを切り、道路の端にあった石にタイヤを乗り上げさせ、車はバリケードを突破した。
「さすがねキャメル!」
ジョディは少し冷や汗を浮かべていたが、キャメルのドライブテクを褒め称える。
「しかし何なんですかあいつら……」
キャメルが怪訝に顔をしかめた。
「奴らの仲間でしょうね……。シュウが生きてると分かったから、私達を拘束してシュウを誘い出す餌にする気なのかも……」
ジョディは後ろを向いて焦りの表情を浮かべた。
「──ってことはやっぱり自分が楠田の拳銃自殺を漏らしたせいで……赤井さんの計画を台無しに……」
「悔やんでる暇はないわよ!今は奴らを振り切ることに集中して!」
ジョディにそう言われたが、キャメルの頭の中は罪悪感でいっぱいだった。
2年前のあの時と同じ。
自分はまた赤井の計画を邪魔してしまったのだ。
キャメルは心の中で赤井に謝った。
昴さんは口元を覆っていたマスクを外してみせた。
ゴホゴホと2回ほど咳払いをする昴さん。
「少々風邪気味なので……マスクをしてもいいですか?君にうつすといけない……」
うまくかわした昴さんに苛立ったのか、安室さんは声を荒げた。
「そのマスクじゃない……。その変装を解けと言っているんだ!赤井秀一!」
だがそんな彼の言葉にも、昴さんはさらりととぼけた。
「変装?赤井秀一?さっきから一体何の話です?」
昴さんはまたゴホゴホと咳をする。TVでは最優秀脚本賞の発表に移っていた。