第28章 緋色──Rye, Bourbon, Russian
「『まさかここまでとはな……』ですか……。私には自分の不運を嘆いているようにしか聞こえませんが……」
「ええ……。当たり前に捉えるとね……」
安室さんは頬杖を突いてそう言った。
私は手にしていたお盆をぎゅっと抱きしめた。
「だが、これにある言葉を加えると……その意味は一変する……。
──『まさかここまで……読んでいたとはな……』
そう……。この計画を企てたある少年を……称賛する言葉だったというわけですよ……」
昴さんの表情はマスクと眼鏡で読めない。
ただ、彼は静かに一言言った。
「なるほど……。面白い……」
来葉峠でのカーチェイス。
キャメルは助手席に座るジョディに尋ねた。
「そ、それで!?その後赤井さんはどこで何を!?」
「さ、さあ……」
ジョディは後ろを気にしながらそう言った。
「心当たりのある人とかいないんですか?口癖が赤井さんと同じとか……」
「口癖?」
ジョディはキャメルに問い返した。
「ホラ、赤井さんよく言ってたじゃないですか!『50・50(フィフティフィフティ)だからお互い様だ』とか……」
それを聞いたジョディはある場面を思い出していた。
百貨店でのある事件後のことだった。
『すみません……。大丈夫ですか?』
人でごった返す中、ジョディは眼鏡をかけた男にぶつかったのだ。
彼はジョディに手を差し伸べながら言った。
『でも過失の割合は50・50です……。周りの注意を怠っていた君にも非はある……』
「あーっ!」
「そこから先は簡単でした……。来葉峠の一件後……その少年の周りに突然現れた不審人物を捜すだけ……。そしてここへ辿り着いたというわけです……」
どくん、どくん、と心臓がうるさいくらいに鳴り響く。
「あの少年とこの家の家主の工藤優作が……どういう関係かはまだ分かっていませんが……あなたがあの少年のおかげでここに住まわせてもらっているのは確かのようだ……」
そう言った安室さんはコトリ、と携帯をテーブルに置いた。
「連絡待ちです……。
現在、私の連れがあなたのお仲間を拘束すべく追跡中……。流石のあなたもお仲間の生死がかかれば素直になってくれると思いまして……。でも出来れば連絡が来る前にそのマスクを取ってくれませんかねぇ、沖矢昴さん……。いや……
FBI捜査官……赤井秀一!」