第28章 緋色──Rye, Bourbon, Russian
「2番目の痩せた男ですね?なぜなら最初の太った男が拾った時に付着した指紋は綺麗に拭き取られてしまったから……。脂まみれの携帯を後の2人に拾わせるのは気が引けるでしょうしね……」
3番目の老人は携帯の電波でペースメーカーが不具合を起こすのを危惧して、拾いすらしなかったのだろう。
昴さんがそう言うと、安室さんは「ええ……」と頷いた。
「でも痩せた男の後に問題の殺された男もその携帯を手にしたんですよね?だったらその男の指紋も……」
「付かない工夫をしていたとしたら?恐らくその男はこうなることを見越して……あらかじめ指先に……」
「コーティング!」
来葉峠を登っている最中、ジョディはそう声を上げた。
「きっとあの時、シュウは指先を透明な接着剤か何かでコーティングしてたのよ!念を入れて両手の指に!」
ジョディのいう『あの時』とはコナンの携帯を掴んだ時。そうしておけば、自分の指紋を携帯に付けずに済む。
「じゃ、じゃああの携帯に付いていた指紋は……」
「シュウのじゃない!その前に手に取った楠田陸道の指紋よ!」
つまり、来葉峠で頭を撃たれて車ごと焼かれた例の遺体は、楠田陸道の遺体だったというわけだ。
恐らく赤井は自分と同じ服を着せたその遺体を車に乗せており、水無怜奈に撃たれたフリをしてタイミングよく遺体とすり替わったのだ。
「なるほど……。なかなか興味深いミステリーですが……。その撃たれたフリをした男……その後どうやってその場から立ち去ったんですか?」
昴さんが尋ねると、安室さんは「TVを消してくれないか」と頼んで来た。
「いいじゃないですか……。マカデミー賞気になるんですよ……。ねぇ瀬里奈さん……」
「何で私に振るんですか」
私は呆れてそう返し、「早く話を進めろ」と言わんばかりの視線を2人に送った。
「それで?その男はどうやって……」
「その男を撃った女とグルだったんでしょうから……恐らくその女の車にこっそり乗り込んでにげたんでしょうね……。離れた場所でその様子を見ていた、監視役の男の目を盗んでね……」
それを聞いた昴さんは「監視役がいたんですか……」と少し驚いたように言った。
「ええ……。監視役の男はまんまと騙されたってわけですよ……。何しろ撃たれた男は頭から血を噴いて倒れたんですから……」
「頭から血を……?」