第28章 緋色──Rye, Bourbon, Russian
「ミステリーはお好きですか?」
私が安室さんと昴さんにお茶を出すと、それを待っていたかのように安室さんは切り出した。
「ええ……まあ……」
「では、まずその話から……。まぁ、単純な死体すり替えトリックですけどね……」
「ホォー……。ミステリーの定番ですね……」
私は砂糖やミルクを置いた後、「……カモミールティーですが、よろしければどうぞ」無表情にそう言った。
そしてスッと沖矢の斜め後ろに控える。桂羅兄はいつの間にか空いているソファに座っており、話を聞く気満々だ。
安室さんはそれに少し驚いたような顔をしたが、すぐに話を始めた。
「ある男が来葉峠で頭を拳銃で撃たれ、その男の車ごと焼かれたんですが……辛うじて焼け残ったその男の右手から採取された指紋が……生前、その男が手に取ったというある少年の携帯電話に付着していた指紋と一致し、死んだのはその男だと証明されたんです……」
私は無表情に話を聞く。
昴さんはTVを点けたまま話を聞いた。
「でも妙なんです……」
「妙とは?」
「その携帯に残っていた指紋ですよ……。その男はレフティ──左利きなのに、なぜか携帯に付着していたのは右手の指紋だった……。変だと思いませんか?」
安室さんは膝に手をつき、前屈みになりながら話した。
昴さんは腕組みをし、足を組みながら言う。
「携帯を取った時偶然、利き手が何かでふさがっていたからなんじゃ……」
「……もしくは右手で取らざるを得なかったか……」
「ほう……。なぜ?」
安室さん曰く、その携帯はその男が手に取る前に別の男が拾っていたのだ。そしてその彼が右利きだったかららしい。
「別の男?」
昴さんは少し怪訝な顔をした。
「ええ……。実際には3人の男にその携帯を拾わせようとしていたようですけどね……。さて、ここでクエッション……
最初に拾ったのは脂性の太った男……。次は首にギプスをつけた痩せた男……。そして最後にペースメーカーを埋め込まれた老人……。
この3人の中で指紋が残っていたのは1人だけ……。誰だと思います?」
安室さんがニヤリと笑いながら尋ねてきた。
「……」