第26章 ジョディの追憶とお花見の罠
「え?」段野さんが明らかにぎくりとした。
その反応を見て、私は密かにほくそ笑む。
「恐らく、五円玉を束ねていたのはその靴紐……。だからあなたは現場からすぐに立ち去れなかったんです……。片方の靴紐がないために普通に歩くと靴が脱げてしまうから……」
鈴を鳴らした後に靴紐を戻して結び直したみたいだけど、その靴紐を犯行に使ったのなら──付いているはず。撲殺した時に飛んだ、被害者の返り血が──
高木刑事が段野さんの靴紐から血痕を見つけた。
目暮警部が怪訝な顔をして段野さんに尋ねる。
「だが何で黒い五円玉を余分に持っていたんだね?遺体のそばに置かれた五円玉は、今回黒兵衛にスられた時に懐に入れられた物だったんじゃなかったのかね?」
「……それはさっきあなた方警察に見せた方……」
段野さんは悲しそうな顔をしてそう言った。次の瞬間、段野さんは怒りを露わにして叫ぶ。
「置いたのは去年あのスリにスられた時に入れられた……息子の命を奪った五円玉の方よ!」
息子とは、段野さんの財布のプリクラに写っていた子供のことだ。
去年あのスリにスられた財布には車のキーも入っていたらしく、それがないせいで喘息持ちだった息子さんが数時間車内に閉じ込められ、病院に行くのが遅れ──結局亡くなったらしい。
そこで段野さんは、スリの黒兵衛のことをネットで調べまくり、出没しそうな所で張っていたのだそう。
「でも何でプリクラを?あれが貼ってなければあなたの財布だと分からなかったかもしれないのに……」
不思議に思ったのか、高木刑事がそう尋ねた。
「財布を開けばあのプリクラが目に留まるでしょ?見せつけてやりたかったのよ、あのスリに……。
あなたが盗み取ったのはお金だけじゃない……1人の小さな男の子の命だってね……」
最後にそう言った段野さんは涙をこらえているようだった。
「……一件落着って感じだけど……」
私は横で怖い顔をして睨んでいる珠希さんを見た。
「ごめんってば!もう行くから〜!」
「早くなさい瀬里奈!急がないと遅刻よ!」
「嘘!ごめんなさい、私もう行きますね!それじゃまたねコナン君!みんな!」
私は慌てて神社を後にしようとしたが──
「待って瀬里奈ちゃん!サイン!」
「歌って〜!」
「握手して〜!」
正体がバレた私はファンから逃げつつ仕事に向かうのであった……。