第23章 服部平次と吸血鬼館
食堂のテーブルに着くと、本人である旦那様はまだ来ていなかった。空は夜だからか、真っ暗で月も何も見えなかった。ゴロゴロと雷が遠くで鳴る。
「ねぇ、心配じゃないの?守与姉さんまだ見つかってないんでしょ?」
実那さんがお茶を飲みながら、羽川さんにそう言った。
羽川さんは相変わらずのニヤニヤ顔で「ハニーは気まぐれで、すぐどっか行っちゃうからなぁ……」と答える。
「しっかり捕まえとくのね……。せっかくの逆玉なんだから……」
「まぁ愛想尽かされたら元カノの君とより戻しちゃうし……」
羽川さんは実那さんにウインクをする。
途端に稲光がカッと光った。ひかるさんがぎょっとした顔をする。
「あ!! い、今、窓に変な影が……」
「変な影だと?」
窓に近かった羽川さんがカーテンを開ける。
と、上から──
「「きっ……きゃああああ!!!」」
私とひかるさんは2人で悲鳴を上げた。
旦那様が上から逆さまになって、私達の部屋を覗き込んでいた。
「あ……ありえねぇよ……どーせロープか何かでよォ……逆さにぶら下がってる……だけだっつーの!」
羽川さんがガチャっと窓を開けた。と、その瞬間に旦那様は上に消えてしまった。そして外に
は──
「な、何あれ……」
稲妻をバックに飛び去る、大きな何かがいた。
「お、おい服部……瀬里奈……何だアレ?」
「と、鳥とちゃいますのん?」
「で、でも鳥にしては大きすぎない……?」
私が言うと、2人はぎょっとした顔をしていた。
「瀬里奈!?」
「お、おい姉ちゃん!?お前血ィ出てるで!まさか咬まれたんとちゃうやろな?」
「へ?何言ってるの……ちょっと雨に濡れただけじゃ……え!?」
私は自分の顔にかかっていた水を拭う。その水は赤かった。
「雨じゃない……屋根からだわ!」
「屋根から血ィが……垂れてんのや!」
この上には屋根裏に煙草部屋がある。多分、そこから血が垂れ落ちてきているのだ。待って、確かそこには──
「確かそこには麻兄が……」
岸治さんがそう言う。
3人で屋根裏に上がると、窓のサッシに倒れ込むようにして死んでいた。
「アカン……頸動脈切られてもう死んどる……」
彼は自分でナイフを持っていた。ということ
は──
何者かに襲われそうになって自ら命を絶ったか……その何者かがそう見せかけたかったかのどちらかだ──