第23章 服部平次と吸血鬼館
「ひかるさんて確か、旦那様の婚約者の連れ子でしたよね?」
私が訊くと、ひかるさんはこくっと頷いた。
「お母さん何で亡くなったの?」
コナン君が尋ねた。ひかるさんは「不運な事故」としか聞かされていないらしい。彼女はその頃病弱で、旦那様の病院に入院していたから、詳しいことは何も知らないとか。
「旦那さん病院やってたんか?」
平次君がきょとんとして訊いた。寅倉総合病院の院長先生だったらしい。
「旦那様はとても優しい方で、私の入院費や手術費を全て肩代わりしてくださって……。私の退院後、自分の病気を理由に引退されたそうですけど……」
「じゃあここでメイドさんをやってるのって旦那様のためなの?」
「そうよ!母が連れ添うはずだった旦那様を私がお世話するの!
……まぁ、ホントは半年前に大学出の就職浪人で困ってたら、旦那様が『メイドの欠員が出たから来ないか』って誘われてその話に乗っただけなんだけどね……」
ひかるさんはえへへっと笑った。
私と平次君は「へ〜……」「ホー……」と感心したように言った。
「だからこの館にまだ慣れてなくて……。今朝も旦那様に来るように言われたのに、どの部屋だか分かんなくて……結局すっぽかしちゃったし……」
「じゃあ旦那様が見つかったら怒られちゃいますね?」
私はくすくすと笑いながら言った。ひかるさんは少し慄いていたが、すぐに笑顔を見せる。
「だ、大丈夫よ!私ここへ来て怒られたことないし……。他のみんなは掃除のチェックとか厳しすぎるってぼやいてるけど……」
「──の割には雑やないか?」
「え?」
平次君が床にかがむ。
「見てみこの床……粉みたいな物がぶちまけられてるやんか……」
「あ、それ、多分私達よ……」
私が手を挙げた。
「餃子の皮を作るっていって、強力粉と薄力粉を出してたから……」
たぶん、気づかない内にこぼしてたんだな。私はそう結論づけることにした。
「でもこの太い筋何なの?ホラ、50㎝ぐらいの幅だけ粉がなくなってるよ?何かを引きずったみたいに……」
「何だろ……。シェフさん達にニンニクの袋が倉庫にあるって聞いたけど……まだ2人共戻って来てないしなぁ……」