第23章 服部平次と吸血鬼館
「愛人の話はやめてくれる?私も父が愛人に産ませた子供だし……」
羽川さんの言葉に岸治さんが歯軋りをした時、不意に割って入った声があった。
「まぁ、法律的には被相続人に兄弟しかいなかったら、相続金はそれぞれ同額なんだから仲良くしましょ……。あの兄さんが今夜の話し合いで誰かをひいきする気なら話は別だけど……」
声の主は寅倉実那さん。顔が少し四角めで、眼鏡をかけた女の人だ。
そしてそんな彼女の後ろから、若い女性が顔を出す。
「あのー……そろそろ料理をお出ししてもいいかシェフが……。あ、でもお話がお済みでないなら……もう少し後でも……」
メイドの桧原ひかるさんだ。
「話は食いながらでもできっから、とっとと持って来ちゃってよ!」
「まぁ、あの奥さんのただの連れ子のあなたには関係のない話だけどねぇ……」
「あ、はい……」
羽川さんと守与さんに言われ、ひかるさんは慄いたように返事をした。
まるで絵に描いたような遺産相続争いだ。私は大きくため息をついた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「え?不治の病?この家の主人の寅倉迫弥さんが!?」
持ってあと半年だか3ヶ月だからしい。招待状に『欠席者に遺産はなし』なんて書かれれば、この兄弟達は来ないわけがない。
にしても……
「遅くねぇか兄貴……」
岸治さんがそう言った。
いつもなら料理にケチをつけている頃らしいのに。
「んじゃ悪いけど娘さん達……ちょっと起こして来てくれね?」
羽川さんに言われ、私と蘭ちゃんと和葉ちゃんが迫弥さんを起こしに行くことになった。
「えーっと、廊下を右に曲がって一番奥って……この部屋よね」
3人でその部屋に向かう。
「……けど何かおかしない?普通こないなことお客さんにやらせるかなァ?」
ノックを数回して部屋に入る。部屋にはソファやテーブルの他に、なぜか棺桶があった。どうやら迫弥さんはこの中で寝ているらしい。
「でもお姉さんずいぶん冷静ですね……」
蘭ちゃんに言われ、私はしれっと返した。
「こんな奇特な人、仕事じゃしょっちゅうだし……こういうの、セットでもよくあるしね」
まぁ、あの寅倉家の人達のニヤついた顔は腹が立つけど。
「どーせあの人達、私達にこの棺桶とこれに寝てる迫弥さんを見せて、ビビらせたいだけなんだから……。迫弥さん、起きて下さい」
そう言って棺桶の蓋を開けると──