第1章 始まり──10年前
震えながら話す少女に、有希子は少し考え込んだ。家に置くのは構わないけれど、優作がどう言うか……。それに、このことをどう説明すべきなのか……。
と、少女がまた口を開いた。
「……あの、有希子さん」
「なぁに?」
有希子が訊くと、少女は勢いよく頭を下げた。
「ここに置いてください、お願いします!」
「いいんじゃないか?」
少女に応える声がした。声のした方を振り向くと、──優作が立っていた。
「あなた!?」
「えっ……。しょ、小説家の工藤優作先生……!?」
少女が驚いたような声を上げる。優作はにっこり笑って言った。
「おや、私のことを知っているとは……」
「有名な作家さんは大体知ってます!」
少女は少し興奮気味。
「うちに置くのは構わないんだが、ちょうど君より下くらいの息子がいる。それでもいいかな?」
「構いません。とにかく置いてください」
少女は生真面目にまた頭を下げた。
「じゃあまずは君の名前から教えてくれるかい?」