第23章 服部平次と吸血鬼館
「じ、実はこれからある館に行くんやけど……。半年前、その館の近くの森ん中で女の死体が見つかったんや……。立てた杭に体を逆さにして縛られた……無残な格好で……」
私は思わず片目を眇めた。エグい殺し方だ。
「殺されたんはその館のメイドやったんやけど……その死体の様子が何やけったいで……」
その死体を見つけたのは山菜採りの老夫婦。死体の肌があんまりにも白かったため、最初は熊除けのカカシが逆さに立っていると間違えたらしいのだ。
「でも、それなら動脈切って失血死させれば……」
「けどそのでかい傷がどっかにもなかったんや……。あるんは遺体の首筋に開いてた2つの穴だけで……」
と、コナン君と平次君が同時に表情を変えた。
「首筋に2つの穴で失血死?」
「お、おいそれってまさか……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「きゅ……吸血鬼!?」
小五郎さんが声を上げた。蘭ちゃんや和葉ちゃんはお城を見ているらしく、それには気づかなかったようだが。
「その殺し、吸血鬼の仕業だっていうんスか!?」
「ただのしょーもない噂です……。昔、この辺をそないな大名が治めてはったらしいし……」
その殺人犯はまだ捕まっておらず、目撃者もいなかったらしい。それに、遺体が見つかった日は雨が降っており、地面はぐちゃぐちゃ。足跡も何も分からない。
「しかし容疑者くらいはいたんじゃ……」
「ええ……。真っ先に疑われたんがその館の主人の寅倉迫弥さんです……。
殺されたメイドが館のシェフに漏らしてたらしいんですわ……。『旦那様が最近不気味で、身の危険を感じるからメイドを辞めたい』って……」
だが、その寅倉迫弥さんにはアリバイがあったのだ。
メイドの清水さんが亡くなった死亡推定時刻に、彼はずっと部屋にこもって寝ていたというアリバイが。しかもそれを証明したのはそのシェフ本人。
「……て、この声誰?」
私が不思議に思って振り向くと、髭を生やした薄い白髪のおじいさんがいた。
執事の古賀陸重さんだ。服部本部長のお父上とは同期の桜らしい。
「ねぇ、何なの?最近の旦那様の様子が不気味だったって……」
コナン君が古賀さんにそう尋ねた。