第22章 怪盗キッドと赤面の人魚(ブラッシュマーメイド)
そして鈴木相談役が私達の所に来て、せっかくなので他の展示品も見て回ることになった。
「うわー……ガラスケースの周り、人がいっぱい……」
「ホントだ……」
「ってかあれって……」
「水槽?」
私、蘭ちゃん、園子ちゃん、世良さんが言う。
オイオイ、まさか──
「そうじゃ……彼奴が狙っておるのは……この亀が背に纏っておるレッド・ダイヤモンド……赤面の人魚(ブラッシュマーメイド)じゃよ!」
水槽の中では亀が悠々と泳いでおり、彼の背中には金のネックレスごと宝石がくっついており、お腹にも他の宝石が色々と付いている。
水槽は硬質ガラス、奥は厚さ2mのコンクリートの壁。天井と両脇は特殊合金の金網で覆われており、さすがの怪盗キッドも盗れないだろう──と思われる。
「実はこの亀、曰く付きでのォ……。知っておるじゃろ?半年前に海難事故に遭って亡くなったイタリアの大女優を……」
この亀は、彼女が飼っていたペットで、「ポセイドン」と言うらしい。
船が沈む前に何とかこの亀だけは助け、誰かに引き取ってもらおうと思い必死に接着剤で付けたという話だ。宝石はお礼と飼育代を兼ねているらしい。
現地の漁師さんが海面に水槽ごと浮いているのを見つけ、それが鈴木相談役の元へ来たというわけだ。
「でもそれ……ちゃんと鑑定してもらったの?」
園子ちゃんが呆れたように言った。
「ああ……じゃが鑑定士が鑑定中に亀に指を噛まれてしまってな……。まぁ亀は5月から11月にかけて脱皮するそうじゃから……本当は脱皮で自然に剥がれた宝石の鑑定を待ってから買うつもりだったが……待ちきれなくてなぁ……」
……なるほど。宝石が亀の背中にある間にキッドと勝負したかったというわけか。
と、口髭を生やした刑事さんがスピーカーでお客さんに声かけをしていた。
《おい!観覧の時間は終了だ!関係者以外はこの部屋から退出しろォ!》