第20章 漆黒の特急──ミステリートレイン
「『やっぱこういうの興奮するなぁ!生きてるって実感できるっていうか……煙に巻かれて命からがら救出されたあの火事を思い出さないか?』って……。
頬を紅潮させ……嬉々としてそう言ったんですよ!あの火事で私の妻が……煙に巻かれて死んだっていうのに……」
安東さんは涙を流してそう訴えた。
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──第三者side
「有希子……私達を煙に巻きたいようだけど……貴方達に勝ち目は……」
「大ありよ!」
有希子はドヤ顔でそう言った。
「だって新ちゃん、シャロンの弱み掴んじゃったもの……」
その言葉に、ベルモットは軽く鼻で笑う。
「もしかして貴方が私の友人だから手が出せないとでも?」
だが、有希子はそれには答えず話し続けた。
「シャロンの仲間、知らないんじゃない?新ちゃんやあの子が薬で幼児化してるってこと……。捜索対象を小学生に絞れば、見つけるのは時間の問題なのに……。
新ちゃん言ってたわよ……薬で幼児化してることを隠す理由があなたに何かあるんじゃないかってね……」
ベルモットは笑みを消して黙りこくった。その間にも有希子は話を続ける。
「それと……板倉卓……。知ってるでしょ?映画の特殊視覚効果に携わってた、私達女優にはお馴染みのCGクリエイター……。シャロンが彼に何かのソフトを発注したみたいって新ちゃんに聞いて驚いたわ……」
何でも、シャロンと板倉卓はある映画でぶつかって以来、犬猿の仲らしい。スタッフ思いのシャロンがあんなに激怒するのも珍しかったそう。
「シャロンのことだから彼への依頼の電話は声を変えてたんでしょうけど……。そうまでして発注したソフト……幼児化を隠す訳と何か関係があるのかしら?」
「有希子、そこまでよ……」
ベルモットは拳銃を取り出し、有希子に銃口を向けた。
「手を引きなさい!貴方のふざけた作戦ならもう読めているんだから!」
「さ、作戦?何のこと?」
有希子は目に見えて慌てた。
ベルモットはニヤリと笑って話し始める。
「彼女が列車内で私達の存在に気づけば、彼女の取る行動はたった1つ……あの薬の解毒剤を飲んで元の姿に戻ること……。もしも幼児化したままの姿で殺され、遺体が車内から発見されたら……彼女の友達のあの子供達が泣いて騒ぎ立て、仮に私が黙っていても組織の目に止まり、否が応でも巻き込んでしまう……」