第20章 漆黒の特急──ミステリートレイン
「車掌さん、言ってましたよね?車掌の制服が1着無くなってたって……」
「え、ええ……」
車掌さんが戸惑いつつも頷く。
「恐らくそれをくすねたのは安東さんだ……。その制服を着て乗車前の点検に紛れ込めば……犯行現場のB室のチェーンロックの鎖を1つ増やすことも……能登さんのA室のランプの電球を切れた物と交換することも……リモコンでアラームが鳴る腕時計を出波さんのE室に隠すことも可能です!」
さらに、出波さんと車掌さんがE室の前で口論している時に再びアラームを鳴らして注意を逸らせば、犯行を終えてB室に潜んでいた安東さんが釣り糸を引っ張って、鏡張りにしたC室の扉を開けても気づかないだろうし……。
その鏡張りの扉の陰でB室のチェーンロックをかけた後、まるで自分の部屋から出て来たように鏡張りの扉を一気に閉めて出波さん達に近づいていけば──
『車掌がずっと廊下にいたのにも関わらず、犯行現場のB室に出入りした人物を誰も目撃していない』という不可思議な状況の出来上がり、というわけだ。
「まぁ運悪く、鏡張りの扉を開ける直前に小蓑さんとメイドさんが廊下を通り、釣り糸に気づく恐れもありましたが……トンネル内で薄暗かったので見逃されたんでしょう……。まさか事件に関わりたくないからあえて言わなかったわけじゃないでしょうしね……」
そう言うと、安東さんは自供し始めた。
5年前の大火事で共に助け出された仲だった──2年前までは。
それが変わったのは、絵画のオークションを見た時だったそう。火事で焼失したはずの絵が出品されていたのだ。その絵の持ち主を遡って調べたら、最後に室橋さんの名前に辿り着いた。
(なるほどね……)
恐らく、室橋さんは屋敷から絵を盗み、盗まれたことを隠すために屋敷に火を放った。大勢の被害者を巻き込んで……。
「室橋は殺される前に言ってました……。あんなに死人が出るなんて思ってなかったってね……。
あの男がもしも我々と同じく火事で亡くなった方々を……このベルツリー急行の1等車に乗るはずだったあの一家を弔うために、毎年乗車していたのなら……自首を勧めるつもりでしたが……偽の推理クイズの被害者役を持ち掛け、探偵役の子供達を待っている時……あの男……こう言ったんですよ!」