第20章 漆黒の特急──ミステリートレイン
「意外ね……。あのボウヤが私達との争いに……母親の貴方を巻き込むとは……」
ベルモットは帽子ごとカツラを外した。
女──有希子は笑って答える。
「自分で買って出たのよ……。相手が銀幕のスターなら、日本の伝説的女優である私をキャスティングしなさいってね!
でも残念だわ……。年を食っても輝き続けるメイクの仕方をいつか教わろうと思ってたのに、それがあなたの素顔?大女優シャロン・ヴィンヤードはただの老けメイクだったなんて……」
ベルモットは頭の上でまとめていた髪をほどきながら言った。
「あら……結構辛いのよ?顔だけじゃなく普段から老けたフリをするのって……。それより廊下ですれ違った時の貴方のあの言葉……」
『私達があなたを出し抜いたら……今度こそ彼女から手を引いてくれるわよね……』
「あれ……どういう意味?」
「言葉通りの意味よ……」
有希子はドアをパタンと閉めた。
「新ちゃん曰く、哀ちゃんはもうこっち側の人間だから……」
「バカね……出し抜けるとでも思ってるの?」
ベルモットがそう言うと、有希子は人差し指を立ててうふっと笑った。
「知ってた?現在、新ちゃんチームが一歩リードしてるのよ?」
「リード?」
「あなたの部屋で気を失って寝かされてた世良っていう女の子……もう元の彼女の部屋に運んでおいたしー……」
それを聞いても、ベルモットは余裕の表情を崩さない。
「あら……仕事が早いじゃない。でも変ねぇ……ボウヤは今、推理ショー中……。他に助っ人でもいるのかしら?」
「さぁ……どうかな?こっちにはスペシャルゲストがいるかもしれないわよん♡」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──瀬里奈side
「でも探偵さん……あんたの推理には無理があるんじゃないかね?部屋のチェーンロックの鎖を1つ増やすなんて簡単にはできないし……私の部屋のランプの電球が切れてなきゃ車掌を私の部屋に呼べないだろ?」
能登さんがそう言う。
確かにそうだ。出波さんが車掌さんを呼んだのも、彼女の部屋に置き忘れてあった腕時計のアラームが鳴ったから。
「いや、偶然ではなく…全て計算通りに事が運んだんです……。安東さんの思惑通りにね!」