第20章 漆黒の特急──ミステリートレイン
「しかし犯人は室橋さんと何の話を?」
能登さんが小五郎さんに尋ねる。
「毎年このミステリートレイン内で行われている推理クイズの相談ですよ……。犯人は偽の指示カードで室橋さんが被害者役、犯人が犯人役、そしてこの1等車にいた私の娘達が共犯者役に選ばれたと偽り……死体消失トリックのためだからと言って、7号車のB室にいた室橋さんと娘達の部屋を交換させてますので……」
もちろん、本来なら1等車のB室は室橋さんが予約していたはずだから、その指示カードは不測の事態の時のために用意していた物で、念のために子供達を探偵役に選んだのだ。
その7号車のB室に誰かが探偵役として訪ねて来れば、蘭ちゃん達は共犯者としてしばらくその部屋に留まらなくてはいけないからだ。もっとも、それはすぐにバレてしまい、蘭ちゃん達は子供達と犯行のあった1等車のB室に戻って来てしまったが。
「それで?犯人が室橋さんを移動させたB室に入ったところまでは分かったが……いつ出て来たんだね?」
「そうよ!B室に入った直後に殺してすぐに部屋から出たんなら……A室の前にいた車掌が見てるはずよね?」
「でも見ていない……。となると怪しいのは、やはり車掌さんが見た扉越しに覗いていた人物ですね……」
能登さん、出波さん、安東さんが言った。
車掌さんが見たのは廊下の一番向こうの扉。E室の前にいる時に見たから、能登さんのA室だったかもしれないというのだ。
「その、覗いていた不審人物の正体なら分かりますよ……」
「え?」
能登さんが驚いたようにこちらを見た。
「それは車掌さん……あんただよ!」
「ええ!?ぼ、僕が不審人物!?犯人なんですかぁ?」
車掌さんが慌てる。
「いや……。車掌さんが見たのは、E室の扉とその前にいた自分自身……」
安室さんのヒントで、私はハッと閃いた。
「ってことは……鏡?」
「その通り!犯人は自分の部屋の扉の内側全体に鏡を貼っておき……車掌さんが出波さんに呼ばれてE室の前にいる時にその扉を開けて……犯行を終えてB室から出て来る自分の姿を見えないようにしたんだ……」
扉のノブに釣り糸を結んで廊下の窓の手すりに通し、それをB室に引き込んで頃合いを見計らって引っ張って開けたのだ。
「そう……このトリックは鏡の位置が近くても遠くてもバレてしまう……」