第20章 漆黒の特急──ミステリートレイン
「え?シェリー?」
私はバーボンにそう尋ねた。
ここはバーボンの愛車の中。バイト帰りに送ってくれるというのでそれに甘えたのだ。
「シェリーのムービーが毛利探偵事務所に送られて来たっていうの?」
「ええ……。そして彼女の手にはミステリートレインのパスリングが付けられていました……」
「え?……まさか!」
私は目を見張った。
バーボンは運転しながらニヤリと笑う。
「そう……。彼女もミステリートレインに乗り込むというわけですよ……」
「……なるほどね。そこでシェリーを殺すの?」
「いえ、僕は殺しませんよ。組織に連れ帰る予定です……」
「そう上手くいけばいいけどね……」
私はふいっと窓の外を見た。ネオンがキラキラと光り、とても眩しい。
バーボンの話だと、シェリーは群馬の山小屋に隠れ住んでいたらしいが、それは彼女が偶然接触した第三者にそう言っていただけらしい。確証はかなり薄いな。
(……って、“らしい”ばっかだな)
私ははーっとため息をついた。
「でも、そのシェリーって科学者、ミステリートレインなんて派手な列車に乗るの?」
私は率直な疑問を投げつけた。
バーボンはニヤリ、と笑い答える。
「派手だからこそ、あえてのチョイス……だと僕は思いますよ」
「あえて?」
「そう……。我々組織の目を盗んで関東を脱出するにはベストな列車じゃないですか?」
なるほど。
つまり、組織は“自分がそんな派手な電車に乗るわけがない”と思っているとシェリーは考えたのか。
あの列車は完全個室。部屋に閉じこもっていれば他人の目に触れることはないから。
「そういうことね。……で?バーボンも乗るの?そのミステリートレインとやらに」
「もちろん。僕が彼女を連れ戻す役をやるつもりなのでね……」
「ふぅーん……」
「もちろんあなたも乗るんでしょう?」
バーボンに言われ、私はぎょっとしたけど、すぐにこくりと頷いた。
「うん、まあ……。知り合いがこのパスリング取ってくれたしね……」
「知り合い?」
「ん。バーボンは知らないと思うし、個人情報を他人にバラすのは好きじゃない」
私はバーボンにそう言った。
言外に「その人のことは教えない」と言っているようなものだ。
バーボンは私の言葉に苦笑していた。
「じゃあ、またポアロで?」
「いや、次はベルツリー急行ですよ……」