第19章 探偵たちの夜想曲(ノクターン)
「ええ……そして、小五郎さんに『トイレに入って来るな』と言わんばかりのあのメールを打って……彼女は膝でブーツを押さえながら紐を引っ張り、弾丸を発射しました……。そして、みんながトイレに入って来る前に紐を引き抜き、タオルを外し……『彼女をトイレに連れ込んだ男が切羽詰まって自殺した』図を作り上げたんです……」
私は精一杯の説明をした。
今でも思い出すだけで体が震える。樫塚圭の死に様があの時の父に似過ぎていたから。
「でも何でそんな面倒なことをしてまで……」
蘭ちゃんが後部座席から声をかけた。
安室さんが答える。
「多分、彼女は樫塚圭を上手く言いくるめて別の場所に移動させるつもりだったんでしょうね……」
「でも、私が来てしまい、その予定が狂った……」
彼女1人であの大柄な男を運び出せるとは思えないし、私の口封じもしなきゃならない。その場で私と男を射殺して投げる手もあったが、銃声を聞いて近所の人が飛んで来たら彼女は逃げるに逃げられない。
「だから彼を引きずってまであのトリックを仕掛けたんだわ……。ああすれば、一旦警察から解放されるもの……」
そして、その後を安室さんが引き継ぐ。
「彼女の携帯……覚えてますか?」
「え?確か……傷だらけだったような……?」
蘭ちゃんが思い出すように言う。私は頷いた。
「でしょ?で、そこでポイントになるのが男の持ち物……。彼の持ち物の中で、傷が付いていなかったのはなーんだ?」
おどけて尋ねる。
小五郎さんが顎に手を添えながらブツブツと言った。
「確か……携帯とスタンガンだったか……?」
「正解。何でそれだけが傷1つないんだと思います?」
「そりゃー、型落ちした携帯を安く買ったからじゃ……」
小五郎さんがそう言ったが、私は首を横に振った。
「いいえ。彼女の持っていた携帯が男ので、男の持ち物にあった携帯は彼女の物だったら……辻褄が合いませんか?」
なぜなら、小銭だらけの財布と一緒にポケットにしまっていたら、どんなに新しいものを買ってもすぐに傷が付いてしまう。スタンガンでも同様だ。
「つまり、スタンガンと携帯は彼女が持ってきた物。彼女は自分をガムテープで縛る前にそれらをすり替えておいたんですよ……」