第19章 探偵たちの夜想曲(ノクターン)
「何なのこの臭い!!」
蘭ちゃんも叫んだ。うん、確かに臭う。この臭いは確か、玄関でも嗅いだ気がする。
と、また頭が痛くなった。今度は物凄くズキズキする。
「……ぃたい……」
私は足に力が入らなくなり、かくんと膝からくずおれた。
「瀬里奈さんっ?」
慌てて安室さんが支えてくれる。
私は痛む頭を押さえ、安室さんに盗聴器を優先するように促した。
「大丈夫、ですから……」
私は頭を押さえながらしゃがみ込んだ。
ベッドの下にはスーツケースが押し込まれており、どうやらその中に盗聴器が入っているらしい。臭いの元もそれのようだった。
私も痛みより好奇心が勝ってしまい、そのスーツケースの中を覗き込もうと体を動かした。
だが、その中に入っていたのは──
「きっ……きゃああああ!!!」
男の撲殺死体だった。
それを見た私の頭はいつにも増してガンガンする。
「……っ!」
「お、お姉さん!?」
私は頭を抱えてうずくまった。
私の脳裏に、覚えてもいない出来事がフラッシュバックする。
そう……。CDを渡しに来たら、探偵事務所の鍵が開いていて……私を出迎えたのは女の人で……奥にはガタイのいい男の人が座ってて……女の人は事務所の人間だって言ってたけど、私はそんな人見覚えなくて……
とりあえず小五郎さんに電話しようとしたら、スタンガンで──
「……思い、出した……」
そうだ……目を覚ましたらトイレに連れ込まれてて……男の人は便器に座らせられて、拳銃を口に咥えさせられてて……女の人が自分の体をテープでぐるぐる巻きにしてて……何かよく分かんない仕掛けをして……私の目の前で……男の人を……射殺……
「あ……ぁ」
「瀬里奈さん?どうしました?」
「〜〜っ!」
──思い出した。
私はあの現場にいたんだ──そして、あそこで起きた“本当のこと”を知っている──
私はあの時の場面を思い出した。
涙が自分の意思とは関係なしにボロボロと溢れ、肺に酸素が行き渡らない。
「瀬里奈ッ!」
ふと、安室さんに名前を呼ばれた。多分、彼が背中をさすってくれている。
私は彼の服をぎゅっと掴み、呼吸を整えた。
「……大丈夫ですか、瀬里奈さん?」
いつもの笑み。私は大きく深呼吸をして、こくりと頷いた。
「私……思い出したんです。あの男の人は──自殺じゃなかった」