第19章 探偵たちの夜想曲(ノクターン)
「目暮警部!」
高木刑事は帽子を被った恰幅の良い男性にそう声をかけた。
「瀬里奈さんをお連れしました……」
「ウム、ご苦労!」
やっぱり私は、瀬里奈っていうんだ……。ここに来て、私はやっと自分の名前に確信を持った。
「瀬里奈君……早速だが、事件のことについて覚えていることはあるかね?」
「事件……」
私は必死に思い出そうとした。でも頭がそれを拒否するみたいにキィンと痛くなる。
「……ッ」
私は痛い頭を押さえて首を横に振った。
それを見た目暮警部が私の置かれたいたらしい状況を説明してくれた。
「瀬里奈君……君は歌手をやっていて、今日は新しいCDを渡しにここに来ていたようなんだが……それも覚えてないかね?」
こくん、と頷く。
「そして渡しに来たはいいが、こちらの樫塚圭さんと同様、毛利君の助手と名乗る男に出迎えられ、スタンガンで気絶させられた……。そして君もガムテープで拘束され、トイレに押し込まれていたんだ……」
「そう、ですか……」
正直、実感が湧かない。
記憶がないから、ということもあるかもしれないけれど、人1人が目の前で死んだというのにショックも何もない。
「しかし、分からんな……。何でこの男はここに樫塚圭さんを連れ込んだりしたんだね?彼女が持っていた鍵がどこのコインロッカーの鍵かを聞き出したかっただけなんだろ?」
目暮警部はトイレの方に向かった。隣にいるチョビヒゲの男の人は──
「あ、お姉さんは覚えてないんですよね……」
私の隣に立っていた女の子がそう話す。
「私は毛利蘭です。目暮警部と一緒にいるのが、父で探偵の毛利小五郎。この子は居候の……」
「江戸川コナンだよ!よろしくね瀬里奈姉ちゃん!」
さっきの眼鏡の男の子……。コナン君て言うんだ……。
「それで、そちらに立っている男の人が……」
「毛利先生の一番弟子の安室透です。よろしくお願いします、瀬里奈さん」
安室さん……?
「……えと、じゃあ呼び方は蘭ちゃんと小五郎さん、コナン君に安室さんでいいですか……?」
そう訊くと、さん人は少し驚いたような顔をした。
「……え、何か……?」
「いえ……記憶をなくす前のお姉さんと同じ呼び方だなぁって思って……」
「そうなんですか……?」