第18章 3人の容疑者──bourbon
「でも彼女に抵抗されて引っ掻かれた傷をごまかすために、わざと僕に殴りかかって怪我をしたって場合も考えられますよね?」
「な、何だとてめェ!?」
私は安室さんの袖をくいっと引っ張った。いくら何でもむやみに挑発しすぎだ。
と、あのサングラスのおじさんが「フン……よく言うぜ……」と言った。
「愛しい女が誰かのものになっちまう前に殺したんじゃねぇのか?ウエイターさんよォ!」
「え?」
伴場さんが目に涙を溜めながら「自分で言わねぇんなら俺が言ってやるよ!」と言う。
「こいつは初音と密会してた……愛人なんだよ!!」
目暮警部が驚いたように「そうなのかね!?」と訊く。安室さんはかけていた眼鏡を外しながら言った。
「そりゃー会ってましたよ……。何しろ僕は彼女に雇われていた、プライベートアイ……探偵ですから……」
探偵、と言うワードを聞いた瞬間、コナン君の表情が変わった。
「い、一体何の為に!?」
「もちろんあなたの動向を……監視する為ですよ……」
安室さんは『浮気性の伴場さんに女がいないか調べてくれ』と初音さんに頼まれたのだ。
「もっとも、僕が彼女にそう頼まれていたことを証明しようにも……初音さん本人はこの店の駐車場に停めた車の中で焼死してしまったみたいですけど……」
そして安室さんは続けた。
「しかし僕が彼女に依頼を受けていたことは、そのサングラスの彼が証明してくれそうですよ?僕が彼女に伴場さんの身辺調査の途中経過を報告していた現場に居合わせたようですし……」
どうやらサングラスのおじさん──春岡参治というらしい──は伴場さんに依頼され、初音さんの動向を探っていた探偵らしい。
密会現場を突き止めることはできたが、相手の男は帽子とフードを被っていて顔が分からない。だが、その時に聞いた声がウエイターの安室さんと似ていたため、安室さんをテーブルに呼んで注文をし、声の確認をした後に同一人物だということをサインで伝えたという所か。