• テキストサイズ

白い雪【名探偵コナン】

第18章 3人の容疑者──bourbon


本をもう一冊買い、新しいカバーと取り替えて表面上は血を隠せているように見えるが──
掴まれた時に本が歪んで、ページの中にまで付着した血の跡は隠せない。それが動かぬ証拠だ。

湯地さんは観念したかのように静かに話し始めた。

「……眠らせた彼女を風呂場に運んでる途中でね……浴衣の懐からポロリ……。その後、彼女に血をつけられたけど気にもしてなかったわ……。あんな本、捨てるつもりだったし……」

でも捨てられなかった。
あの本には、彼女と一緒に書いた一番有名な話が載っていたから。未紅さんに、『本を出してみないかって話が来てるんだけど、手伝ってくれない?』と頼まれ、2人で書いたのだという。
そしてそのデビュー作がヒットし、彼女はあれよあれよという内に直本賞作家にまで上り詰めた。

「別に妬んだりはしなかったわ……手伝ったのはあの1作だけだし、賞を取ったのも彼女の実力……。友人として誇らしかったわよ……。よーし私も、って思い、持ち込んだ出版社であんなことを言われるまではね……」

『確かに面白いけど、沢栗未紅の作風とそっくり過ぎるよ……沢栗未紅は1人で充分!何なら彼女のゴーストライターやってみる?』

「私、気づいてなかったのよ……彼女がデビュー以来、私の文体を模倣して自分の作風にしてるってことに……。もちろん彼女に言ったわ……『せめて「デビュー作は私との合作だった」って公表して』ってね……」

でも、彼女は『直本賞作家に泥を塗る気?』って受け付けてくれなかった。
このままじゃ私は実体のないゴーストになってしまう……。そうならない内に──
湯地さんは悲しそうな声でそう言った。

「だけどやっぱりあの本は捨てるべきだった……これから先、『死神の葬列』を読もうとしても……彼女と徹夜してアイディアを出し合い、一生懸命書き上げたあの思い出が込み上げてきて読めやしない……。

1ページもめくれない本なんて……持っててもしょうがないから……」

/ 493ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp