第18章 3人の容疑者──bourbon
「まずは、最初にサインをもらいに未紅さんの部屋を訪れたゾウ……。風呂上がりでまだ髪も乾いてなかったのなら、体もまだ火照っていたはず……。そんな状態でサインを書けば……熱や湿気で紙が歪みますよね?
……ということは、最初のゾウは歪んだサイン本を持っていた二瓶さんで決まりでしょう……。二瓶さんは神経質な程、几帳面な性格……。そんなことでもない限り、本を粗末に扱って歪ませたりしないでしょうしね……。
その二瓶さんが未紅さんの部屋に行った時、彼女のスリッパも揃えたと言ってましたよね?そのスリッパが濡れてもいないし温かくもなかったということは……未紅さんは大浴場ではなく、部屋の風呂に入ったことは間違いない……。部屋の風呂ならスリッパを履く必要はありませんから……。
なのになぜ、光井さんが未紅さんの部屋から出る時に間違えて履いた、未紅さんのスリッパがぐっしょり湿っていて温かく……『未紅さんが大浴場に入ってきた』と光井さんが勘違いしたかというと……
そのスリッパは、風呂上がりにやってきた湯地さんが帰る時に、未紅さんのスリッパを履いて出て行ってしまい……その湯地さんの温かく湿ったスリッパを、光井さんが履いてしまったから……。
つまりゾウは二瓶さん……
次にやってきたキツネは湯地さん……
そして最後にやって来たネズミが光井さんだったというわけです……」
最後にやって来たとされるネズミに名指しされた光井さんは、「スリッパだけで決めつけるなんて……」と焦ったような声を出していた。
そんな彼らに、コナン君は続ける。
「スリッパだけじゃありません……。未紅さんが名付けたあだ名には、色の法則があったんですよ!」
《い、色!?》
「色の中には動物の名が入った色もありますよね?らくだ色とか鳶色とか……」
心臓が高鳴る。
「きつね色にこんがり焼けるのは、湯地さんが職場で作るパンの色……。
ゾウは象牙色……。二瓶さんの夫が彫る印鑑の色……。
ちなみに未紅さんの兄、勲さんが付けられたウグイスはうぐいす色……。勲さんがリーダーを務めるサバゲーのチーム名、グリーンキャップから取ったもの……
そしてネズミはもちろんねずみ色……。光井さんの実家の石材店が扱う石の色……。
つまり、未紅さんの部屋に最後にやって来たネズミは光井さん……あなた以外に考えられないんですよ!」