第17章 赤と黒のクラッシュ──Kir
トビーさんのポケットから出て来たのは、社長の血が付いた例のメモ。
「ああ……。持って帰って、アメリカ人である俺の彼女の弟に何て書いてあるか聞こうと思ったんだ……。
俺の彼女の方はあの社長にこき使われて過労で体を悪くし、去年の暮れに死んじまったから……聞くに聞けねぇからよ……」
「こき使われて?」
目暮警部が怪訝そうに訊いた。
トビーさんの彼女は、日本語でそう書かれた契約書にサインさせられていたのだ。彼女はカタコトの日本語は話せたが、字はさっぱりだったらしい。
おまけに、彼女が働けなくなった場合、彼女の弟が連帯責任を負う契約になっていたため、トビーさんはせめて弟だけでもと思い、拳銃で脅して契約書を奪いに来たというわけだ。
「まぁ、契約書はここにないから秘書に持って来させるなんてぬかしやがるから、思わず引き金を引いちまったがよ……」
そしてトビーさんは目暮警部に向き直った。
「しかし『シランプリ』には参ったよ……。何で分かった?俺が英語の全く話せない、中身はコテコテの日本人だってことが……」
「レセプションだよ!」
コナン君が言った。
「え?」
「秘書のお姉さんが『ホテルのレセプションに行く』って出て行った時、トビーさん言ってたよね?『人が死んだのにパーティの方が気になるなんて』って!」
外国人にとって、ホテルのレセプションとは日本でいうホテルのフロントのこと。
「だから分かったんだよ!トビーさんは英語が出来ないってね!」
それを聞いたトビーさんは「ハハ……」と笑った。
「フロントのことかよ?道理で妙だと思ったよ……。こんなことならアメリカ人の父からもっと英語を勉強しとくべきだったかな……。父から教わったのは拳銃の撃ち方ぐらいだったからよ……」
それを聞いた目暮警部がきょとんとする。「け、拳銃の撃ち方?」
「ああ……父は在日米軍の兵士……。父は嫌がっていたがグアムに旅行に行った時に、無理矢理せがんで教えてもらったのさ……。でもどーせならもっとちゃんと教えて欲しかった……人を撃つということがどういうことかを……」
そしてトビーさんは悲しそうに笑った。
「もう二度と味わいたくはねぇよ……引き金を引く度に自分の魂が抜けて行くような……あの嫌な感覚はな……」
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