第17章 赤と黒のクラッシュ──Kir
「しらんぷり!」
“呪文”を聞いた子供達は爆笑したが、すぐにその笑いは引っ込む。
──トビーさん以外の容疑者が椅子に座っていたからだ。
「な、何であんたら座ってんだ!?」
「あ、でも今警部さんが……」
キャメルさんが話そうとすると、ジョディさんが口を開いた。
「“Sit down please”……
『シランプリ』は英語を聞き慣れた外国人の耳にはこう聞こえるのよ……『どうぞお掛けください』って……。椅子の前に立たされていたなら尚更ね!」
そしてジョディさんの隣に立ち、私も口を添えた。
「つまり、見かけは外国人だけど中身は日本人で、しかも英語に慣れていない人の耳には、元々の意味の『知らないフリ』にしか聞こえないってわけ!──これがどういうことか分かりますよね?犯人さん?」
その言葉にきょとんとしている目暮警部と高木刑事のために、ジョディさんが事件をおさらいする。
「事件はこうでしたよね?
拳銃で撃たれたのは外国人タレント事務所の社長……。その社長が外国人のタレントの卵と今日会う予定だったことや、警察の到着が早かったことから容疑者は……社長の死体の第一発見者である秘書のイリーナさんと……犯行時刻にこのホテル内にいた外国人……。
英語教師のハル・バックナーさんと……モデルのトビー・ケインズさんと……なぜか階段でトレーニングに勤しんでいたFBI捜査官のアンドレ・キャメルの4人!
手がかりは社長の机の上にあった千切られたメモ用紙……。社長の手やペンやメモの端に社長の血が付いていたことから、社長が死ぬ間際に書き残したメモを犯人が持ち去ったと推測され、ペンの跡から割り出されたその文字は……“Bring my tux”……私のタキシードを取って来てくれ……。
秘書のイリーナさんの話によると、今晩、社長はパーティに出る予定になっていて……そのメモは社長が自分に宛てた伝言だろうということ……。
もう分かるでしょ?」
ジョディさんがそう言って笑う。と、高木刑事がハッと閃いたような顔をした。
「そ、そうか!」