第4章 物語の始まりへ
夜。
(新一遅いなぁ……)
などと思いつつ料理の仕上げに取り掛かる。
やっと出来上がった、という頃、リビングに置いてあった携帯が鳴った。
「?」
また安室さんが電話して来たのかと思ったが、液晶画面を見ると『蘭ちゃん』と表示されていた。あの子は新一とデート中なんじゃなかったか、不思議に思いつつも通話ボタンを押した。
「はいもしもしー?」
『あっ、お姉さん!新一帰って来てませんか!?』
「はい?」
開口一番何をいうかこの娘は。
私は怪訝に思ったが、きちんと聞かれたことには答える。
「帰って来てないわよ?てゆーかあなたと出かけてたんじゃなかったの?」
『そ、それが……新一とトロピカルランドで別れたっきり連絡も何もないんです!』
「…………はあ?」
蘭ちゃんが言うには、新一とトロピカルランドで遊んでいる時に、新一は「すぐ戻ってくる」と言い置いて蘭ちゃんと別れ、その後何も連絡がないらしい。
蘭ちゃんが家に帰っても連絡はゼロで、家に帰って来てるのかも、と思い私に連絡して来たらしい。
「そうだったの……。ごめんね、新一まだ帰って来てないわ。私の携帯にも連絡入ってないし」
『そうですか……』
蘭ちゃんの声が目に見えて沈んだ。私は慌てて明るい声を出した。
「あ、で、でも帰って来たら1番に蘭ちゃんに連絡入れるから!だから心配しないで、ね!」
『はい……ありがとうございます』
蘭ちゃんが少し笑う気配がした。私は内心ほっとしながら電話を切る。
それからいろんな人に電話をかけてみたが、新一の行方はつかめなかった。
こうなるとさすがに心配になってきた。雨もひどくなってきたし、新一は傘も持っていなかったはず。この雨に打たれたまま歩き回っていたりしたら──ぞっとした。
「とりあえず探しに行ってみよう」
そう呟いて靴を履き玄関を開ける。と、今まさに玄関を開けて家に入ろうとしていたらしい人影が2人。その内1人は知っている人だった。隣の発明家・阿笠博士。だが隣にいる子供は──?
「阿笠博士?どうしたんですか」
「あ、ああ……とりあえず家に入れてくれんか、この子も一緒に」
「誰?この子……。新一にそっくりだけど」
見れば見るほど子供の頃の新一にそっくりな子供。その子は「とにかく入れてくれよ、瀬里奈」と私の名前を見事言い当ててきた。