第4章 物語の始まりへ
それからしばらく経った。新一は蘭ちゃんが空手の都大会で優勝したらトロピカルランドに連れて行くという約束をしたらしく、少しだけ浮かれていた。
「どーでもいいけど、蘭ちゃん放ったらかしにしないようにね?あんたは事件が起きるとすぐそっち行くから」
「わあってるよ!……瀬里奈は行かねーのか?」
「行かないわよ。行く人もいないし、仲良く幼馴染2人でラブラブして来なさい」
「ら、ラブラブじゃねーよバーロォ!」
軽くからかってみると、新一は顔を真っ赤にして反論する。
私がくすくす笑いながら「優勝するといいわね」と言うと、新一も「おう」と笑いながら言った。
そして当日。
「行って来らあ!」
「行ってらっしゃい、気をつけてね〜」
新一は蘭ちゃんとデートへ。両親は安定の海外暮らしで、私は1人工藤家に残っていた。
「あ〜……暇」
書斎の本も新一と一緒に読み終えてしまったし、夕飯の支度をするにもまだ早い。さてどうしたものか、と考えていると──
プルルルルルッ。
いきなり携帯が鳴った。「ッ!?」しいんとした中でブルった携帯に、私は驚いて後ずさった。だがすぐに我に戻って液晶画面を見る。液晶に表示されていたのは、登録されていない知らない番号だった。
「……?」
怪訝に思いながら通話ボタンを押す。
「もしもし」
『あ、瀬里奈さんですか?安室です』
「……!?」
ぎょっとして思わず携帯ごと耳から遠ざけた。『だ、大丈夫ですか?』と心配してくる安室さんの声も聞こえる。
「えっと……安室さん?何で私のケー番知ってるんですか」
訝しんでそう言うと、安室さんは悪びれる風もなく言い放った。
『あなたの番号くらい、調べるのは造作もないことですよ』
「ストーカーですか?切りますよ」
そう言って終了ボタンを押そうとするが、安室さんの必死に止める声に免じてボタンを押すのは止めた。
「で?何の用なんですか?」
『ああそうだ、今月暇な日はありますか?』
「……は?」
私は遠慮会釈なく怪訝な声を出した。
『いえ、あなたにお話ししたいことがあるので……僕のメルアドを送りますので、暇な日があればそちらに連絡していただければと』
私ははぁ、と大きくため息をついた。