第17章 赤と黒のクラッシュ──Kir
「しかし兄貴……。その鼠……どこの誰だかまだ分かってないんでしたよねぇ?」
ウォッカに言われ、ジンは電話を切りながら言った。
「ああ……。変装した鼠の顔写真入りの偽造免許証やパスポートを名前を違えてたんまり持っていやがったから、ただの鼠じゃねぇとは思うが……。鼠の本当の呼び名は分かった……」
ウォッカは口元に笑みを浮かべながら言う。
「そーいえば俺と兄貴が駆けつけた後、その現場にノコノコやって来た鼠の仲間が囁いてやしたねぇ……」
「ああ……」
返事をしねぇその鼠の死骸の耳元で……鼠の持っていた免許証やパスポートのどの名前にもなかったその名を……傷の付いたレコードのように何度も何度もな……。
ジンはタバコを咥えて笑みを浮かべた。
「結局そいつは俺達の気配に気づいて自分でおっ死んじまいやしたけど……その名前、何だったんですかい?俺の位置からは遠すぎて……」
ウォッカに尋ねられるが、ジンはすぐに答えられなかった。
「いけねぇな……あの世(あっち)に逝っちまった奴の顔と名前はどうにも忘れちまう……」
まぁ鼠共の大体の正体は読めるが……キールが帰ったら聞いてみるとしよう……アイツの耳にもその名は届いていただろうし……。
ジンはそう言ってこの話を締めようとする。
「早く見つかるといいんですがねぇ……」
ウォッカが笑みを引っ込めて不安げに呟いた。「見つかるさ……」ジンは窓の外にタバコを投げ捨てる。
「もう目星をつけて……探りを入れている所だからな……」