第17章 赤と黒のクラッシュ──Kir
──第三者side
ある日の夜。
黒いポルシェと青いバイパーが連なって走っていた。
「キール……組織が本腰入れて捜してんのに見つからないなんて……流石FBIってトコロかねぇ……」
バイパーを運転していたキャンティが言う。助手席に座っていたコルンが言った。
「キール死んだ……間違いない……」
「フン……それならまだマシさぁ……。もしも奴らに洗脳されて寝返りでもされたら……」
「それはない……」
キャンティが耳につけているイヤホンからジンの声が聞こえた。
「両腕と両足を撃ち抜かれた上に自白剤を打たれ、アバラが折れるまで殴られても何も吐かなかった女(タマ)だ……心配するだけ無駄だぜキャンティ……」
「そいつはひょっとしてキールがあの方のお眼鏡にかなった“あの事件”のことですかい?兄貴……」
ウォッカが興味深そうにジンに尋ねた。ジンは嬉しそうに笑う。
「その事件ならアタイも聞いてるよ……。組織に紛れ込んだ鼠にキールが気づいて追い詰めたまではイケてたけど……。逆にとっ捕まって拷問され、あんたらが駆けつけた時にはもう虫の息……。アタイにはどうにも合点がいかないねぇ……。何でそれであの方のお眼鏡に適って、キールがアタイらと組めるようになったかが……」
「歯だ……」
「歯?」
ジンの言葉に、キャンティは怪訝な顔をした。
「キールは唯一残ったその武器で、鼠の手首を骨が見える程噛み砕いて銃を奪い……戦意を無くした鼠の顎の下から僅かに動くその指でトリガーを絞り、頭を吹っ飛ばした……。キレた獣にしか出来ねぇ芸当だ……」
「けどさあ……鼠はそれで逝っちまったんだろ?何でキールが何も吐いてないって……」
「鼠が懐に忍ばせていたんだよ……。キールを尋問する鼠の声が録音された……MDをな……」
それを聞き、キャンティは納得したような表情になる。
「なーる……そのMDにキールの声は……一切入ってなかったってワケかい……」