第16章 映画編・迷宮の十字路 〜後編〜
所変わって、鞍馬山・玉龍寺。
「工藤君……?」
座り込んでいる和葉を自分の隣に立たせる新一。
西条が悔しそうに言った。
「くそっ……騙しよったな!」
そう言って刀を手に持ったままこちらへ突進して来た。新一は和葉を連れてまず西条を避け、苦し紛れに手にしていた木刀を投げつけた。
角の方へ逃げた2人だったが、そこへ西条の弟子達がじりじりと迫ってくる。どうにかして和葉だけでも逃がせないかと考えるが、体が思うように動かない。そこに来て例の発作が来てしまう。
と、そこで──
「……馬鹿ね。いつもいつも、無茶しすぎなのよ、あんたは」
瀬里奈の声がした。見ると──般若の面を被った西条の弟子の1人が、新一達を背中に庇うように立っていた。そして新一達を振り向き、面を外した。そしてニコッと笑う。
「……呼ばれて飛び出て瀬里奈ちゃん♪……ってね」
「……瀬里奈……」
西条の弟子──に扮した瀬里奈が立っていた。新一はちょうどいいとばかりに瀬里奈に頼む。
「ちょうどよかった、瀬里奈。……彼女を逃がしてやってくれねーか?」
「……それは出来ない相談だわね」
「なっ!?」
予想外の答えに、新一はぎょっと目を剥いた。その間にも、瀬里奈は向かってくる弟子達を退けている。
「何でだよ!」
「例えば、和葉ちゃんを逃がしたとしてね?その後あんたはどうするの?私が戻って来るまで戦うつもり?ただでさえ例の薬のせいで体ガッタガタなのに?」
瀬里奈の言っていることは正論だ。
「和葉ちゃん。ちょっと悪いけど、しばらくここから逃がすことはできないわ。少しの間だから、辛抱しててね」
「は、はい!」
和葉の返事を聞き、瀬里奈は峰打ちで西条の弟子達を退ける。だがそこで、ふと気づいたのだ。
(……この人、他の人と太刀筋が違う──?)
瀬里奈が目をつけた人間は、瞬時に瀬里奈の視界から消えた。
「えっ!?」
慌てたのも束の間、その人物は新一に刀を振り上げようとしていた。
間に合わない……!瀬里奈がそう思った瞬間、刀は新一の顔の目の前で止まった。
「……探偵やらしたら天下一品やけど……侍としては、イマイチやな?」
「服部……」「平次!」「平次君!」
──病院で絶対安静のはずの平次だった。