第16章 映画編・迷宮の十字路 〜後編〜
平次が怒鳴り返す。と、それを信用したのか、西条は和葉を解放した。怪訝な顔をしたままの和葉を行くように促す西条。
と、彼はニヤリと笑い、刀を抜いた。
「!? 和葉、走れ!」
平次が急いで和葉の後ろへ回り、西条の刀を受け止める。
そして山門へ向かおうとすると、西条の部下らしき人間が数名入って来て、逃げ道を塞がれた。
西条の後ろにも数名の人間。全員般若の面を被っていた。
「オレの可愛い弟子達や……お前らは手ェ出すな!」
そう言って西条がかかってくる。平次は木刀で応戦しようとするが、一太刀で刃の部分を斬られた。明らかに様子のおかしい平次。それに気づいた和葉は──
「やめて!! この人平次とちゃう!!!」
そう叫んだ。
そして西条の攻撃で帽子が飛ばされ──その人物の正体が明らかになった。
「だ、誰やお前!?」
「工藤新一……探偵さ!!」
──東の高校生探偵、工藤新一だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何じゃと!? あの薬を飲ませたのか!?」
病院。博士と灰原が廊下で話をしていた。
「工藤君から電話で。一時的にでも、工藤新一に戻れる方法はないかって訊かれてね……」
でも、APTX4869の解毒剤の試作品はもうないし、前に風邪薬がわりに飲んで元の体に戻れた白乾児も、抗体ができてしまってもう使えない……そこでふと思いついたの。強い風邪と同じ症状を引き起こすあの薬を飲んで、もう一度白乾児を飲めば……1回くらいは元の体に戻れるかもしれないってね……。
「そ……それで、」
「……思った通り、実験は大成功。工藤君は元の体に戻ったわ……。でも、強い風邪を引いているのと同じだから、体はガタガタだし、命の保証は出来ないわね……」
博士が心配そうに言った。
「それで、平次君の具合は……」
「さあ……?」
灰原は平次の病室を振り向いた。
「明日精密検査をするまで、絶対安静らしいから……一応、彼を見張るよう頼まれてるけど……あっ!」
灰原は平次の病室のドアを開けた瞬間、驚きを隠せなかった。病室はもぬけの殻、窓の外にシーツが繋がっていた。
──平次、脱走。