第16章 映画編・迷宮の十字路 〜後編〜
「あんたが本当に欲しかったんは……」
平次はポケットから例の水晶玉を取り出した。
「これやろ?」
「!!」
平次は水晶玉をすぐポケットにしまい、また話し始めた。
「この水晶玉を取り戻すために、あんたは昨日この山でオレを襲ったんや……!!」
失敗したみてーやけどな……。平次はそう付け加えた。
「そしてあんたは、宝を独り占めするために先斗町のお茶屋で桜さんを殺しにかかった……。なぜ祇園や宮川町を避けて先斗町を選んだか……そこのお茶屋だけ裏に川が流れてるからや!」
「……川?」
和葉が驚いたようにぴくりと肩を跳ねさせる。
「あんたは納戸で仏像を捜している桜さんを殺した後、警備会社が迷子や盗難防止に使う端末を凶器と一緒にペットボトルに入れて捨てた……。そして後で携帯電話で警備会社のホームページにアクセスして端末の位置を調べ、回収したんや!」
そして犯人は大阪へ帰る平次を待ち伏せて、同じ短刀で平次を殺そうとしたのだ。
この時の殺しは和葉によって阻止されたが、“わざと”凶器の短刀を残し、容疑者から外れようとしたのだ。犯人はあの短刀を持ってお茶屋から逃げた誰かだと思わせるために。
「そうやろ?西条大河さん……!いや……武蔵坊弁慶と言った方がええかもな……?」
犯人は面を固定していた布を外し、面を外した。
今までの西条は見る影もない、完全な悪人ヅラである。
「さすがは浪花の高校生探偵、服部平次やな……。何でオレやと分かった?」
「あんたが弓やってるのを隠してたからピンと来たんや……。あんたは正座する時、右足を半分引いてから座った……あれは『半足を引く』ゆうて、弓やってる者がクセでたまにやってしまう座り方や……。それと、弓をやってる者について訊いた時、あんたはうっかり“やまくら”と言いかけた……!」
あれはお茶屋の山倉さんのことではなく、“矢枕”。弓を引くときに矢を乗せる、左手親指甲の第二関節の事。
「恐らくあんたはこう言うつもりやったんや……『そういえば、矢枕を怪我してはりますね。千賀鈴さんは』、と……。矢枕なんて言葉を知ってるのは、弓やってる奴しかいねーからな……」
ちなみに竜円さんは『つる』のことを『弦』と言っていたため、弓に関しては素人。