第16章 映画編・迷宮の十字路 〜後編〜
「ああ……大分よぉなったわ。姉ちゃんが色々してくれたおかげやな」
「私何もしてないけど……」
私は軽く苦笑した。ただ汗を拭いていただけなのに。
「ハイ、とりあえず汗は拭いたから、体が冷えて風邪引いたりとかもないと思う。無茶は禁物ね」
そう言うと、平次君は「ハハハー……」と困ったように笑った。無茶する気だな、この人。私はそう思ったが、ため息をつくだけにとどめた。
私が烏龍茶を手に取ると、それを確認したかのようにコナンが私の隣に腰を下ろした。
「服部……8年前、お前が忍び込んだ寺は山能寺だったんだな」
その言葉を受けた平次君はお茶を盛大に吹き出した。「ちょっと!お茶飛ぶでしょ!」私はハンカチで袖を軽く拭う。
「何で分かんねん!!」
平次君は本気で焦っている様子。
「バーロ、あの時の桜を見るお前の顔でピーンと来たよ……そばにお前の言ってた格子のついた窓もあったしな……」
そう言われ、平次君は観念したように巾着袋を取り出した。
「……そうや。あの桜の下でこの水晶玉を拾たんや……」
「……ごめん、水差してもいい?」
私はいたたまれなくなって口を挟んだ。
「多分その水晶、その初恋の子が落としたやつじゃないと思うわよ……」
「何やと!?」
驚く平次君に、私は説明を加えた。
「多分、山能寺で盗まれた仏像が額にはめていた白毫よ」
「白毫?仏さんの眉間にあって、光を放つっちゅー毛のことか?」
「ええ……」
私は頷いた。コナン君が言葉を継ぐ。
「仏像ではしばしば、水晶玉でそれを表してる……。能面でもそうだ。
──オレの推理はこうだ」
8年前、盗賊団『源氏蛍』は山能寺の本堂に忍び込み、秘蔵の仏像を盗み出した。
だが、運び出す途中で白毫が外れて落ちてしまった。
後で気づいた首領の義経は、手下の1人に山能寺まで探しに行かせた。だが──
「平次君に先に拾われ、彼を見失った、と?」
私が訊くと、コナン君は頷いた。
「ああ。やむなく義経は、仏像を桜さんの店の倉庫に保管した。そして8年後、犯人はひょんなことから8年前の少年がお前であることを知ったんだ……」