第3章 ゴールデンアップル
「なぜ俺を助けた」
そう訊かれ、私は目を瞬いた。だが「うーん」と少し考え込んだあと答えた。
「人を助けるのに理由はいるかしら」
男は意表を突かれたのか、目を丸くしていた。
「例えばあなたが通り魔だったとして、それが死にかけてる人を見捨てる理由になるの?」
にっこり笑ってそう言った。呆気にとられている男をよそに、私は話し続ける。
「これ、弟の受け売りなんだけどね?人が人を殺す理由は知らないけど、人が人を助けるのに論理的な理由なんていらないだろって言ってたのよ。だからかなぁ」
不思議そうな顔をしている男に私はじゃあね、と手を振って去ろうとした。──が、1つ言い忘れていたことを思い出して男を振り返る。
「オジサン」
「……?」
男は怪訝な顔をした。私はそんな男の顔にも構わず言った。
「いいことあるといいね!」
最後に満面の笑みでそう言うと、男はきょとんとした顔になっていた。
そして男の元を去る。背後で怪しい女の声が聞こえたのにも気づかずに──
「あの子があなたの『エンジェル』なのね、真凛。──いえ、“キティ”」
そして女はクスクス……と笑った。
「あの子にコードネームを付けるとしたら……そう、“ルシアン”かしらね?──甘く優しい、まさにルシアンだわ」
女は自分が手にかけてしまった友人に瓜二つな娘を見つめ、クスクスと笑った。
「彼女は……私にとってもエンジェルね……ありがとう、瀬里奈」
女は去って行く瀬里奈の背中を見つめながら言った。
「Russian……See you again.(また会いましょう)」