第3章 ゴールデンアップル
外は雨が降っていた。
雨を見ると思い出してしまう──母と逃げた、あの夜のことを。
「それにしても……さ」
私はひとりごちた。
「通り魔の特徴くらい教えてよぉ〜……」
私はがくりと首を下げた。みんなの前ではああ言ったが、さすがに通り魔は怖い。
早くホテルへ行こう、と思い、歩くこと数十分。
「ここどこ……?」
早くも道に迷ってしまった。日頃から蘭ちゃんの方向音痴をからかっていたのに、自分が迷っていては話にならない。
見たところ廃墟だらけの通りのようだ。どうしたものかと思いつつキョロキョロと辺りを見回していると──
「……誰、だ」
掠れた男の声がした。びっくりして振り向くと、銀髪の日系人が拳銃をこちらに向けて睨んでいた。
男は腹を赤く染めていた。
「……怪我、してるの?」
そっと近寄る。瞬間、男は私に向かって発砲した。
「きゃ!……あっぶないなぁ、もう」
「く、来るな!来んじゃねぇ!」
「大人しくしててよ。お腹の怪我、少しは手当てしなきゃでしょ?」
そう言って私は懐からハンカチを取り出した。ペロリと男の服をめくると、──ひどい有様だった。
「ねぇ、オジサン……これ、銃槍?」
「よく分かったな」
「弟のせいでよく見てるの、こういうの」
さらりと新一に罪をかぶせる。私はハンカチを口に咥えて引きちぎった。柔らかい繊維のハンカチでよかった、と思う。
「何してんだ!?」
「何って……手当てでしょう?ハサミがないからボロボロだけど」
くるくるとハンカチを包帯がわりに巻いていく。新一がサッカーでよく怪我をしてきていたのが幸いしたのかもしれない。おかげで怪我の手当ては手慣れてきていた。
「でもオジサンよかったね?」
「……何がだ」
男は怖い顔で私を睨んだ。
「誰かに親切にしてもらえるって、すごい幸せなことだと思うんだよね、私。オジサンのこと、神様はちゃんと見てるんだね」
話しながら手当ては大体終わり、仕上げに少々キツめにぎゅっと縛り上げた。
「はい、これでよしっと。苦しい?」
「……いや、平気だ」
「ならよかった。くれぐれも新しい怪我増やさないようにね」
ひらひらと手を振って男の元を去ろうとする。と、男が私の背中に声をかけた。
「なぜ俺を助けた」