第16章 映画編・迷宮の十字路 〜後編〜
「おお、来やはりました……」
竜円さんが来客を出迎えに行く。いかにも、という感じの京美人だ。
「あれ?」
コナンがきょとんとした。
「どうしたの?」
「お姉さん……千賀鈴さん?」
コナンは縁側に来た女性に声をかけた。
「へぇ、そうどす……」
「舞妓姿とは別人やから驚いたやろ。さっ、上がって……」
竜円さんに勧められ、千賀鈴さんはぺこりと頭を下げる。
「へぇ、おおきに……」
千賀鈴は履物をきちんと揃えてから上がった。
そして、右足を少し引いてから畳に正座する。あれ?と私が思ったのも束の間、西条も同じように座った。
「昨夜はおおきに……また、お頼申します……」
「いえ、こちらこそ……」
4人が礼をしたのに合わせ、私も頭を下げる。私は状況が分かっていないコナンと平次を軽くつついて頭を下げさせた。
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「おおきに、さいなら……」
水尾邸をお暇させていただき、私達3人は千賀鈴さんと一緒に歩いていた。
「山能寺さんは、六角通りどすなぁ……」
千賀鈴さんが歩きながらそう言った。
「ここはえびす川通りやから、──まる たけ えびす に おし おいけ あね さん ろっかく……やから、6つ目の筋どすな」
そう言ってニコリと笑う。ああ、京言葉──懐かしい。
平次君は彼女の言葉に何かに気づいたように目を眇めた。
「ねぇ、今の何て歌?」
コナン君が尋ねる。千賀鈴さんはコナン君に目線を合わせてしゃがみ込み、教えてくれた。
「ああ……うちらは“手毬唄”言うてますけど……。京都の東西の通りの名を北から南に歌うてんのどす……。
まる たけ えびす に おし おいけ
あね さん ろっかく たこ にしき
し あや ぶっ たか まつ まん ごじょう
せった ちゃらちゃら うおのたな
ろくじょう ひっちょう とおりすぎ
はっちょう こえれば とおじみち
くじょうおおじで とどめさす
京都の子は、みんなこの唄で通りの名を覚えるんどす……」
私はクスッと笑って口ずさんだ。
「まる たけ えびす に おし おいけ……」