第16章 映画編・迷宮の十字路 〜後編〜
「そこが不思議なんだよね〜……」
私は顎に指を添え、考え込む素振りを見せた。
巾着を平次君に返し、電車を降りた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──水尾邸
「襲われた!? あの後で!?」
水尾さんに聞き返され、平次君は頷いた。
「それで失礼なんやけど、水尾さんのアリバイ聞きに来たんや……何しろ犯人は、翁の能面をつけてたからなァ……」
「翁の能面!?」
水尾さんが驚いたようにこちらに身を乗り出した。
「ついでに西条さんと竜円さんのアリバイも聞かせてもらえますか?」
平次君がそう頼む。竜円さんが「敵わんなァ……」と頭を掻く。西条さんが言葉を継いだ。
「今日は千賀鈴さんと4人で桜さん殺害した犯人について話しよ思て来たのに……」
だが水尾さんは「ええやろ……」と言い、
「昨日はお茶屋からまっすぐここに帰って寝た……。ただ、私は独身やし、母親とは部屋が離れてるから……その後もずっと部屋にいたかは証明できひんな……」
次に西条さんが話し始めた。
「ボクも同じようなもんや……寺町通りにある店の2階で一人暮らしやもんなァ……」
「私は本堂でしばらく経を読んだ後、自室に戻って休みました……。証人はいません……」
それを聞いた平次君は「そーですか……」と小さく言った。
「それともう1つ……皆さん、弓やらはりますか?」
平次君が尋ねると、「弓ですか?」「いや……」という声が上がった。
水尾さんは能役者のため、紅葉狩りの舞台などでやるらしい。
「私も弓の弦鳴らして、悪霊払いの真似事はしたことありますけど……」
竜円さんが俯きがちにそう言った。
「じゃああの時、お茶屋さんにいた人の中にはいないの?弓をやってる人……」
コナン君がそう尋ねると、西条さんが思い出したように言った。
「そういえば……やまくら……」
「えっ?」
瀬里奈と平次の声が見事にハモる。
「あの山倉さん、弓やってたんか?」
山倉さん?私は事情が見えない。コナン君に訊くと、どうやら千賀鈴さんをひったくりから助けた時に一緒にいたらしい。
「けど……あん時はおらへんかったやろ……」
「あ、いや……」
西条が何か言いかけた時、「ごめんやす……」と門の方で声がした。