第16章 映画編・迷宮の十字路 〜後編〜
先に隙を見せてしまったのはオレだった。
片足が川に突っ込んだのだ。そのことに驚き、隙を見せてしまったオレ、そしてその一瞬を突いて、犯人はオレに短刀を突きつけようと突進した。
だが間一髪でオレはその刃を避ける。犯人も負けじとオレの脇腹に短刀を刺そうとした。だがそれは服をかすり、オレの懐から巾着袋が落ちた。
犯人がそれを拾おうと身を屈めた瞬間──オレは飛び蹴りを喰らわせた。犯人が退いた瞬間に巾着袋を拾い、逆のポケットに入れる。
「これはお前が欲しがるもんやないで……!」
苦しそうにしながらもそう言い放つ。
だが、その刹那。
視界がぐらり、と揺れた。
(目が……おかしい……)
そんなオレの変化を犯人が見逃すはずもない。犯人はオレに短刀を突きつけようとする。オレもそれを紙一重で交わしていくが、木にぶち当たってしまう。ここまでか、と思われた時だった。
ガンッ!
犯人の被っていた翁の面に何かがぶつかった。投げたのは──和葉だ。
「刑事さん、こっちこっち!」
刑事を呼んだのか、誰かに向かって手招きをしている。
犯人は咄嗟に周りを見回したが、面は元々視界が狭いもの。周りの状況などよく見えるわけがない。
犯人は慌てて木刀を持ち、その場を去った。
「平次、大丈夫!?」
和葉はオレに駆け寄るなりそう言った。
オレは掠れた声で「和葉……刑事は?」と訊くが、和葉は明るく「そんなん嘘に決まっとるやん!」とあっさり言い放った。
そんな彼女の右足は裸足だ。どうやら靴下に硬い物を入れて投げつけたらしい。
「お前……どこでそんなモン覚えてん……ホンマ……恐ろしい女やのォ……」
「平次!?」
そのまま平次の意識は薄れていった。最後に目に入れたのは──犯人が残した短刀だけ。