第15章 映画編・迷宮の十字路 〜前編〜
和葉ちゃんが「ここに残る」と言う平次君に、「あの舞妓さんが気になるのん?」と疑いの目を向ける。
「……これはこれは」
私は小さく苦笑した。──平次君の初恋の話は、桂羅について調べている内に小耳に挟んでいる。
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その後も千賀鈴さんと舞妓遊びをしている小五郎さん。障子にもたれている平次君が呆れたように「エンジン全開やな……」と言った。
「まぁ、たまには脳味噌を休ませるのも大切だから……」
「いっつも休んでんだろ、おっちゃんは。眠りの小五郎なんだからよ」
コナン君がさらりと皮肉る。私は「はは」と苦笑するにとどめた。
そこへ竜円さんが戻って来る。どうやらトイレに行っていたらしい。彼と入れ替わりに西条さんがトイレに行くべく席を立った。千賀鈴さんも揃って立とうとしたが、西条さんがそれをとめた。
「……あら、月が出て来た」
私はふわり、と微笑んだ。コナン君も後ろを振り向き、懐かしそうに目を細める。
「月か……」
2人の反応に疑問を抱いたのか、平次君がきょとんとした顔でこちらを向いた。
「何や?」
「いや……前に蘭と待ち合わせした時のことを思い出してな……」
──新一が約束を思い出した頃には、既に2時間も遅刻していた。まさか蘭が待っているとは思わなかったが、新一は一応待ち合わせの場所に向かってみた。
『……誰?』
『わ、悪ィ蘭……実はオレ、すっかり……』
忘れていた、と言おうとした新一の言葉を遮るように、蘭がニコッと笑った。
『よかった……。新一の身に何か起こったんじゃないかって、心配してたんだ……』
──回想を終えたコナン君は哀しそうな目をしていた。平次君はそれに気づいてか気づかずか、コナン君のことを小突く。
「そん時やろ?あの子のことただの“幼馴染”や思ってたんが変わったんは」
「バッ、バーロー!んなんじゃねーよ……」
そんな2人のやりとりを微笑ましく見る。
「たまには素直になっておいた方がいいわよ?特に、蘭ちゃんには無用な心配ばっかかけてんだから」
「瀬里奈まで……」
コナン君は呆れた声を出したが、平次君は明るく言った。
「お、姉ちゃん分かっとるやん!」
「ふふ、そないでしょ?」
思わず口が滑る。と、2人は怪訝そうな顔でこちらを見ていた。