第15章 映画編・迷宮の十字路 〜前編〜
「あら、京言葉……。喋るんどすか?」
芸妓さんに訊かれ、私は内心しまったと思った。
だがそんな表情はおくびにも出さず、私はニッコリ笑って答えた。
「ええ、色んな地方の方言は一応……。京都はやっぱり好きなので特に……」
苦しい言い訳かと思ったけれど、何とかその場の人達は騙せたみたい。
──このことは、蘭ちゃん達はおろか、私の信頼する新一や、新一の両親にすら話していないことだから。
「……まだ話すべき時じゃない……」
私は静かに深呼吸をした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
わいわいと大人達が芸者さん遊びをしている間、私ははぁ、と溜息をついた。
コナン君の場合は、蘭ちゃんとの思い出だったけれど、私の場合は──
──あの嫌な事件を思い出す。あの時も、こんな綺麗な満月だったから。
やがて水尾さんがトイレに立ち、それには千賀鈴さんが付いて行った。
すぐに2人とも戻って来て、また遊びが再開される。
そんな時だった。
「きゃああああー!!!!!! だ、誰かぁ〜!!!」
誰かの悲鳴が響いた。上にいた全員がその悲鳴が聞こえた所へ駆けて行く。
悲鳴が聞こえたのは地下。そこには桜屋の女将が座り込んでいた。
「どうしました!?」
小五郎さんが、女将に訊く。女将は震える指で前を指差した。
「さ、桜はんが……!」
女将が指差す方をみんなで見る。
そこには──腹に義経記を乗せたまま事切れている桜正造さんがいた。