第15章 映画編・迷宮の十字路 〜前編〜
「お、お前達どうして……」
小五郎さんが心底驚いたように言う。園子ちゃんが「住職さんに教えてもらったんだ♪」と悪戯っ子のように笑った。
「そうですか……住職さんが……。ほな皆さん、ご一緒にどうです?」
竜円さんが明るくそう言ったのを皮切りに、6人はそれぞれ空いている席に着いた。
平次君がそこに顔を出した時、何か嫌な気配がした。殺気のような──
「……」
私は思わず顔をしかめた。
平次君は千賀鈴さんの隣に座ると、「あれ?」と声を上げた。
「あんた、宮川町の……」
「へぇ、千賀鈴どす。その節はおおきに……」
その会話に、和葉ちゃんと私はきょとんとする。
「知り合いなん、平次?」
「ああ、ちょっとな……」
言葉を濁した平次君をスルーし、私は千賀鈴さんに『その節』のことを聞いた。どうやら宮川町でひったくりに遭った所を平次が助けてくれたのだそう。
「へぇー、意外と男前な所あるのね」
私はぽつりと呟いた。
「もぉー、ちょっと目を離すとこれなんだから!」
小五郎さんの隣では蘭ちゃんがぷりぷりしている。ちなみに私は平次君とは逆の千賀鈴さんの隣に座っている。
竜円さんが宥めると、向かいに座っていた桜さんが同調した。
「『源氏蛍』言うたら……メンバーは全員、義経記持ってはるそうですなぁ……」
桜さんと西条さんの後ろに控えていた桜屋の女将が心配そうに言った。
「ワシも持ってるんやが……あれはええ本やで。なぁ古本屋」
桜さんが隣にいた西条さんに同意を求める。彼は頷きながらも困ったように笑って言った。
「へぇ。……けど僕はあんまり好きやおまへん。義経記ゆうても、実際は弁慶の活躍を描いた『弁慶記』ですから……」
「私は好きやで?」
西条さんの斜め前、障子の近くに座っていた水尾さんが言った。
「特に『安宅の弁慶』は最高や」
確かに。そう思い頷いたが、園子ちゃんはきょとんとしていた。
「『あたか』って何ですか?」
問われた水尾さんは答える。「能の出し物の1つや……」
「頼朝の追っ手から逃れる途中、義経とその家来達は山伏に変装して安宅の関所を抜けようとするんやけど……」
義経の変装が見破られそうになった。そこで弁慶は咄嗟に、義経を棒で叩いたのだ。
「お前のせいで疑われてしまったではないか」と。