第15章 映画編・迷宮の十字路 〜前編〜
タクシーに乗って山能寺に向かう。自動的にコナン君は私の膝の上だ。
「ごめんねコナン君……本当ならここに座れるのに」
「いいよ、瀬里奈姉ちゃんが来てくれれば百人力だからさ!」
「お世辞が上手くなったのね、まだ小1なのに」
くすくすと笑う。そんな話をしているうちに、タクシーは山能寺へと着いた。
境内を歩いて行くと、何人かが固まって井戸端会議をしているのが見えた。その中の1人、山能寺僧侶の竜円さんがこちらを振り向く。
「おお、毛利さん!」
彼は明るくそう声をかけ、5人の方に向かって来た。必然的に井戸端会議をしていた他の4人もこちらを振り向いた。
「遠い所を、ようおいで下さいました!」
そう言って小五郎さんと握手する竜円さん。「私、お電話を差し上げた竜円です」
「ご紹介します、住職の円海です」
後ろから来た高齢の僧侶が合掌をした。そして竜円の向かって左側にいた3人を指して言う。
「こちらの3人は、ウチの檀家の方達です」
竜円さんはまず、眼鏡をかけた脂性のような雰囲気(失礼)の男を指した。
「桜正造さん。寺町通りで古美術店を経営されてはります」
「あんたが、あの有名な毛利小五郎はんか」
桜さんは小五郎さんを値踏みするかのように見た。……何かヤな感じの人だな。少なくとも私はいい印象を持たなかった。──小五郎は「有名」と言われていい気になっていたが。
「お隣が、能の水尾流の若き宗家・水尾春太郎さん」
着物を着た若い男性がぺこりと頭を下げた。
「そして、古書店をやってはる西条大河さん」
「よろしゅう頼んます……」
丸眼鏡をかけた男性がニコリと笑って会釈した。
「まぁ、檀家というより剣道仲間ですなぁ」
円海さんがにこやかに言った。ああ、だから住職も年老いているのに矍鑠としているのか。
隣にいたコナン君は剣道仲間というワードに興味を惹かれたらしく、へぇ、と感心した様子を見せた。
「ところで」
小五郎さんが話を切り出した。
「このお寺には、12年に1度だけ開帳される秘仏があるそうですな?」
「はい、薬師如来様が……」
蘭ちゃん達は一般公開されるその秘仏も楽しみに来たらしい。
円海さんはそれを聞くと、「薬師如来様も喜ばれることでしょう」と嬉しそうにしてくれた。
だが、周りの人間の表情は不思議と暗かった。
「……?」