第15章 映画編・迷宮の十字路 〜前編〜
「何ですって!?御本尊が盗まれたァ!?」
寺院内に入った小五郎さんが驚きのあまり声を大にして叫んでしまった。私はくいっと袖を引っ張って、声のボリュームを下げるように示唆する。
8年前、山能寺の薬師如来像が盗まれたのだという。
説明をしてくれている竜円さんは、秘仏がしまわれている戸を開けた。
「向かって右が日光菩薩像、向かって左が月光菩薩像です。けど……中央にいてはるはずの薬師如来さんがどこにも……」
言いつつ竜円さんは戸を閉めた。
彼は警察に通報しようと円海さんに申し出たそうだが、「縁があればまた戻ってくるかもしれん」と言われたのだそう。
「んな悠長な……」
小五郎さんが呆れるのももっともな話だ。
そして8年の月日が流れ、つい5日前のこと。郵便受けに変なものが入っていたのだそう。
「切手もなし、差出人の名前もなしか……」
小五郎さんは封筒をざっと見てからそう言った。封筒の中には紙が二枚。
「『この絵の謎を解けば仏像の在り処が分かる』……」
一枚にはそう書いてあり、もう一枚には──
「何じゃこりゃあ!」
「これ……」
私はその絵を見て小さく呟いた。
階段の段差を正面から見たような絵。階段でいう一番上の『踏み板』の部分には、赤の蝉、緑の天狗、赤の金魚。その下の踏み板には鶏と……ドジョウ?
次の踏み板には何も書いていないが、その代わりそのすぐ下に紫のすみれと緑の天狗、紫の富士山。その右隣、段の外にどんぐりが描かれている。
そして、なぜか点が1番目と2番目の踏み板の間に付いている。
ただのシミにも見えるが、これは──
「ねぇお父さん。しあさってまでに見つけられるの?」
蘭ちゃん……それは訊いちゃいけないと思う。うん。
小五郎さんは強がっていたが、かなり苦戦している様子で、私とコナン君はこっそり顔を見合わせて苦笑いした。
「ねぇねぇ!仏像捜しはプロに任せて、私達は京都見学しよーよ!」
園子ちゃんが提案する。
蘭ちゃんがそれに1つ付け加えた。実は和葉ちゃんが明日京都を案内してくれるそうだ。ただし、平次君は用事があって来られないらしいが。
「残念だったわね、名探偵さん」
「あん?」
「平次君来ないから、寂しいんでしょ」
そう言ってからかうと、コナン君は無言でグーパンチをお見舞いして来た。もちろん小学1年生だから痛くも痒くもないのだが。