第15章 映画編・迷宮の十字路 〜前編〜
──第三者side
大阪、服部邸。
西の服部こと服部平次がベッドに横になりながら雑誌を読んでいた。その見出しは、『平成の義経、盗賊団のお頭』。
平次は見出しを小さな声で読み上げた後、何かを思い立ったようにベッドから起き上がった。
そしてクロゼットから上着を取り出して羽織る。
平次は机の引き出しから小さな巾着を取り出した。その中からこれまた小さな水晶玉を出し、切なそうにそれを見つめた。そして外に咲いている桜を見やる。
そこへ。
「平次いてる?」
「えっ、あっ、のわぁ!!」
ノックもなしに引き戸が開いた。犯人は遠山和葉、平次の幼馴染である。
平次は驚きすぎて手に持っていた水晶玉を落としてしまった。そしてそれは和葉の足元へ転がる。「あっ、あ〜……」
ひょいっとそれを拾った和葉は水晶玉を平次に手渡す。
「アカンやん!大事なもんなんやろ、コレ?」
「あ、ああ、そやな。ちゃんとしまっとかんとな」
平次はキョドりながら水晶玉をポケットに戻す。
和葉は不思議そうに服部に尋ねた。
「平次出かけるん?」
「ああ、ちょっと調べたいことがあってな……。──ん?何か用やったんか?」
様子のおかしい和葉に平次はそう問うてみる。和葉は何か言いたげだったが、すぐに首を横に振った。
「……っ。ううん、桜見に行かへんかなって思ってたんやけど……けどええわ!」
「そうか。ほな、ちょっと行ってくるな」
平次は机の上に置いていた愛用のキャップを後ろポケットに突っ込みながら引き戸の方に歩いた。和葉が「気ィつけてなー!」と明るく送り出す。平次は後ろ手にひらひらと手を振った。
平次の姿が見えなくなってから、和葉は開けっぱなしにされていた引き出しを足で乱暴に閉じた。
「何でアタシが笑顔で見送らなアカンの!」
──ごもっともである。