第14章 もう戻れない2人──本堂瑛祐
4人が出て行った後、私は園子ちゃんに訊いた。
「ねぇ、園子ちゃん?」
「?何ですかお姉様」
「本堂瑛祐君だっけ、あの子……お姉さんいるとか、聞いてない?」
「へ?い、いえ別に何も……」
「そう……」
私はきゅっと眉根に皺を寄せた。
彼の目元……とても“彼女”に似ていた……そう、今まさに事故で意識不明の重体になっており、今まさに杯戸中央病院に入院している“彼女”──キールに……。
「何かあったんですか?」
園子ちゃんに不安そうに訊かれ、私は慌てて首を振った。
「ううん、何でもない。帰ろっか」
「え、お姉様バイトは?」
「うん?ああ、今日はお昼までだったからね。だからここに来てたんだよ。暇だから」
そう言ってにこやかに笑うと、園子ちゃんも安心したように「そうですよね!」と笑った。
──家に帰ると、私はさっそく調べ始めた。まずは本堂瑛祐の家族関係について。
そして、水無怜奈の経歴について洗い出した。
だが──
「……あーっ、もう!何でぇ!?」
私は調べ上げたレポートを見て叫んだ。
本堂瑛祐の家族構成は簡単に出て来たのに、水無怜奈に関する情報は不自然なほどに少なかったからだ。いや、少ないというよりは偽の情報しかないという所か。
アナウンサーになる前の彼女の経歴は、全て巧妙に偽造されたもので、水無怜奈がどこで生まれ、どこで育ったかは分からないのだ。
「分かったのは、本堂瑛祐の家族構成くらいね……」
私はレポートを見て呟いた。
両親は既に他界、唯一の肉親である姉は行方不明……。
姉は随分前に家出したらしい。それからは母親と暮らしていたが、その母親も病死してしまい、今は生きてるか死んでるかも分からない姉だけが家族らしい。
「これがお姉さんね……」
私は調査の途中で入手した写真をひらひらと振った。
見れば見るほど、若い頃の水無怜奈にそっくりである。だが──
「……えーっと、瑛祐君は小さい頃にお姉さんに輸血をしてもらった経験があり……瑛祐君自身はO型である……ね。じゃあお姉さんもO型なのかしら……」
しばらく画面をスクロールしていたが、ある1行に目をつけ、私はそこでスクロールをやめた。
「瑛祐君が……白血病の治療を……?」
これは興味深い。私はフッと笑った。