第2章 スコッチ
「なぜそれを……」と言いたげな顎髭の男の表情を見て、私はやっぱり、と思ったがあえて口には出さなかった。
「スコッチさんは……潜入してるのね?そして、そこの長髪のお兄さんも……」
私がくるりと長髪の男を見ると、彼はため息をついて頷いた。
「ああ、君の言う通りだ。俺はFBIから潜入している赤井秀一……」
長髪の男──赤井さんはスコッチさんに向き直った。
「さぁ、分かったら拳銃を離して俺の話を聞け!」
スコッチさんは呆気にとられつつも拳銃を離そうとした。が、次の瞬間、カンカンカンと階段を上る音が聞こえた。
拳銃を当てたのはスコッチさん。
「ダメだよお兄さん!」
私が必死に止めようとするが、成人男性の力に女子高生が敵うはずもない。
スコッチさんは私を振り切って拳銃の引き金を引いた。
ドンッ!!!!!!
銃声が響いた。
「……え?」
私と赤井はスコッチさんの返り血で赤く染まっていた。
呆然として何も出来ない私と違い、赤井さんは冷静にスコッチさんの胸ポケットを探っていた。
そこへ──あの時の色黒の青年が駆けてきた。
「裏切りには制裁をもって答える……だったよな?」
スコッチの自殺を隠そうとする赤井さんに私は怪訝な顔をした。なぜ隠すのか、と思ったが、そこは赤井さんの判断に従うことにした。
赤井さんをじっと睨んでいた青年だが、ふと私の方を見て、
「……なぜ君がここにいる?」
と怖い顔で訊いてきた。
「迷い込んだただの一般人のようだ。スコッチを殺したところを見られたが……去年の件もあるし、俺は見逃そうと思っているが?」
「それ“だけ”は同感ですよ、──ライ」
色黒の青年がなお怖い顔で言った。