第2章 スコッチ
高校2年。
さすがにもう慣れた米花町だが、慣れてしまうと街を探検したくなって来るのが人間というものだろう(違う)。
私は町探検と称して、廃ビルが立ち並ぶ一角を歩いていた。こういう所に入り込むのは、やはり生来の好奇心からなのかもしれない。
「うっわ、暗……」
私は思わず声を漏らす。ふと上を見上げると、屋上に誰かの人影を見つけた。
「あら?あれは……」
はたと思い、人影のいる屋上に向かってみた。
なるべく足音を立てないように階段を上り、そっとドアを開ける。するとドアの隙間から会話が漏れ聞こえた。
「自殺は諦めろスコッチ……。お前はここで死ぬべき男ではない……」
え……?
気づけば私はドアを開けて屋上へ入っていた。
途端に2人が怖い顔で振り向いた。
「……!君はあの時の……」
1年も経っていたのに、顎髭の男も長髪の男も覚えていたらしい。
「ご無沙汰してます」
にっこり営業スマイルを返し、瞬時に真顔になって訊いた。
「……何、してるんですか」
スコッチと呼ばれた男は心臓に拳銃を当てたまま動かない。
長髪の男はまたスコッチさんに向き直った。
「まさか……自殺しようとか思ってるんじゃないでしょうね?」
厳しい目つきでそう問うと、スコッチさんは私から目をそらした。やっぱり、と思ったがあえて口には出さない。
ひゅうっと風が吹いた。私のこげ茶色のロングヘアーが風になびく。
「見たところ……仲間割れのように見えるのだけど」
「そう思ってくれていた方が助かるな」
長髪の男がそう言った。
だが私は気づいていた。工藤家に避難する前──私と実の母親を追いかけて来ていた者達と同じ匂いが、目の前の男2人からすることに。
「……あの人たちの仲間なのね……?あの真っ黒な人たちの……」
「!!? 黒だって?」
私の言葉に反応したのはスコッチさんの方。
そして私はもう1つ気づいていた。先ほど長髪の男が言っていたあの言葉──
『お前はここで死ぬべき男ではない……』
あれはどう考えても喧嘩した仲間に言う言葉ではない。
まさか──
「あの人達の所に潜入でもしてるの……?それで、そっちのお兄さんがバレて自殺しようと……?」
「「!!!」」
2人は私の方を見て目を見開いた。